忘れ去れられた名ブランド『モバード』ブランドの歴史と魅力
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「たゆまぬ前進」腕時計 モバードブランドの物語
1905年、ディーテシャイム兄弟が時計会社「モバード」の物語をスタートさせました。
なぜそれが重要なことなのでしょうか?
モバードとは、エスペラント語で「たゆまぬ前進」という意味であり、時計製造の革新に対する終わりなき取り組みの姿勢を、見事に表現していると言えるからです。
この「たゆまぬ前進」とブランド全体を完全に理解するには、1881年まで時を遡る必要があります。
個人的な意見ではありますが、まず本題に入る前に、モバード社の時計の歴史と時計の品質の良さを考えると、モバードの時計がその真の価値に値するだけの注目が、忘れ去られていることはとても残念なことです。
ギャレット社同様に、過小評価されているブランドだと思います。
目次はこのようになっております
1.モバード社創世記の話
2.曲線美を生かしたケース ポリプランとカービプラン
3.トラベルウォッチ エメルト
4.モバードのクロノグラフ『M90』と『M95』
5.カレンドグラフ・セレストグラフ・カレンドマチック
6. モバード社とフランソワ・ボーゲル社の関係
最後にまとめとなっております。
それでは早速やって参りましょう。
モバード社創成期
1876年、ディーテシャイム家は普仏戦争から逃れるためだけでなく、時計製造会社を設立するという夢を実現するために、ラ・ショー・ド・フォンに引っ越してきました。
創業当初の業務は、ムーブメント(他社製のもの)を懐中時計に搭載し、組み立てるというものに限定されていました。
会社の名前は3人兄弟の名前、レオポルド、アキール、イジドールにちなみ「L.A.&l. Ditesheim, fabricants」(L.A.&l.ディーテシャイム・ファブリケーションズ)という社名で運営されていました。
ファブリケーションというのは、『製造』という意味ですね。
それから5年後の1881年、次男のアキールが時計学の勉強を終えると、小さな研究所という形でついに夢が実現し、それから数年間、成長を続け1897年には従業員80人を抱える大規模な工場へと発展しくこととなります。
この1881年が世間的に言われる、モバードの創業の年になります。
当時ルクルト社の従業員は100人、オーデマ・ピゲ社では時計職人がわずか10人だったことを考えると、これがどれだけ巨大カンパニーだったのかは、お分かりいただけると思います。
モバード社の発展
モバード社は、創業当初からとても前衛的な時計メーカーでした。
なぜならモバード社は電動の機械に投資をした、最初の時計メーカーのうちの1つだったからです。
この大胆かつ革新的な動きは、大きな成功をおさめました。
革新的な設備により生産性が高まり、さらには従業員数が増加する結果となりました。
この投資がもたらしたもう一つの利点は、モバード社がそれまで外注していた部品を自社製造できるようになったことです。
これらのツール、リソース、労働力の増加により、彼らは女性用腕時計を(当時としては)大量に生産し始めたのです。
モバード社は1917年から、1948年の間に順調に成長を続け、工場の従業員数は300人を超え、労働力だけでなく世間で認知されるということにおいても、スイスの時計産業界の真の「巨人」となったのです。
曲線美を生かしたケース:Polyplan(ポリプラン)とCurviplan(カービプラン)
1900年代初頭は、革新的な時計製造ということにおいて、モバード社が非常に繁栄していた時代でした。
これを証明する1つの指標として、モバード社は1902年から1912年にかけて膨大な数の特許を申請したということが挙げられます。
その中でも、最も重要な特許として1912年6月7日に取得した、スイス特許第60 360号「ポリプラン」があります。
これはイジドール・ディーテシャイム(三男)の、人間工学に基づき手首にぴったりと完璧に「フィットする」時計を作りたいという革新的なアイデアから生み出されたものでした。
ポリプランという名前は、ムーブメントが3つの層に分かれて配置された、マルチ(ポリ)レベルの形状とデザインに由来しています。
ムーブメントとケースは、この構造によって発せられる一瞬の輝きによって、他のどのような時計よりも、際立って素晴らしい曲線美を手に入れたのです。
1912年から1917年の間にこの見本モデル、約1500本が製造されコレクターの間ではモバード製品の中でも、最もレアで人気のあるモデルの一つとなっています。
このことを踏まえ、2019年11月、アンティコルム・オークションハウスは、「ポリプラン」の見本モデルを10,625スイスフラン(140万円程度)で落札しました。
モバード製品において「究極に」ということではないですが、れっきとしたモバード製品に属していると言えるのが「カービプラン」でした。
さまざまな金属素材や文字盤のバリエーションがある「カービプラン(
CURVIPLAN)」は1926年から1940年の間に製造され、湾曲に優れたブリッジを採用したCal.510が搭載されました。
ポリプランは、見かけることはまずありませんがカービプランであれば、まだ探せばどうにか見つかりますし、手に入れることは可能だと思います。
エメルト
1926年に発売されたエルメトは、おそらくモバードブランドの中で、最も知られた代名詞とも言えるモデルです。
こちらのモデルは、エレガントで伝統的な懐中時計としてのデザインをすべて兼ね備えた、旅行用の時計(トラベルウォッチ)として販売されたものです。
その名前は、時計のムーブメントと文字盤を調整可能な金属製ケースに「密閉」できることに由来し、そのケースには豪華な革が施されていました。
発売開始から1年後の1927年、モバード社はエメルトに非常に魅力的で革新的な機能を加えました。
それは、「密閉された」ケースを開閉することでムーブメントを自動的に巻き上げることができるメカニズムです。(モバード社が特許取得)
この画期的な機能があることで、エルメトは「擬似自動巻き時計」とも言うべき存在となりました。
モバード社の最も重要なクロノグラフムーブメント
1930年代の終わり頃、モバード社は初めて完全に自社製のムーブメントを搭載した、クロノグラフを発表しました。
違いを見分ける簡単な方法として、M90には2つのサブダイアルがあるのに対し、M95には3つのサブダイアルがあるということです。
M90は、1938年に発売され1965年まで製造されました。
その一方で、M95はM90の1年後(1939年)に製造され、ゼニスとのコラボレーション「エル・プリメロ」が始まる70年代初めまで、モバード社の時計に搭載されました。
左側がM90で、右側がM95になります。
1945年頃、第二次世界大戦末期にノルウェー空軍に支給されていたのが、『M90』であり次期型の『M95』が支給されたのが1950年から1960年代です。
見た目は市販品も軍用のものも違いはほとんどありませんが、軍用のものにはケースの後ろ側にノルウェー軍のマークが刻印されています。
スウェーデン軍の刻印とともに、北欧系のミリタリーウォッチの刻印は紋章のようなマークであり、かっこいいものが多いですよね!
カレンドグラフ・セレストグラフ・カレンドマチック
モバードの代表作は、これらだけではありません。
これから紹介する3つのモデルは、搭載するムーブメントの種類、表示するムーブメントの複雑さによって分類することができます。
まず「モバードトリプルカレンダー」として知られるカレンドグラフは、1938年に登場し、1954年まで製造されました。
キャリバー475(モバード470の派生型)を搭載し、時、分、秒、曜日、日付、月を表示するようになっています。
次に「セレストグラフ」ですが、アメリカでは「アストログラフ」と呼ばれこのモデルは、先ほど説明した全ての機能を表示できるのと同時に、さらに月表示(31日から1日になる際に月表示を自動的に進める)という複雑な機能を備えているのが特徴です。
また、6時位置にはムーンフェイズも搭載されております。
1947年から54年にかけて製造されたこのモデルは、カレンドグラフと同じくキャリバー470の派生モデルである473を搭載しています。
1948年から1954年にかけて生産されたカレンドマチックは、カレンドグラの自動巻きタイプです。
クロノマチックのように、マチックがつくと『自動』って意味になりますのでカレンドグラフとはその辺で、覚えると分かりやすいでしょうね。
自動巻きCal.220以外は、カレンドグラフとほぼ同じ仕様です。
モバード社とフランソワ・ボーゲル社
モバード社は、20世紀における最も伝説的なケースメーカーである『フランソワ・ボーゲル社』と密接な関係を築き、パテックフィリップ、ミドー、ユリスナルダンなどの時計に見られる、防水ケースを手がけています。
では実際に、これらの3つの時計に共通する点があるので画像をご覧ください。
左から順番にパテックフィリップ「タスティ・トンディ(Tasti Tondi)」、ミドー「マルチセンター」、モバード「クロノグラフ」です。
ボーゲル社のケースは個性的で独特なデザインですが、見分けるのが難しい場合は、ケースバックの内側の面で確認することができます。
ここには、鍵マークの上にFとBの文字が配置された、ボーゲルを象徴する独特な彫り込み(シグナネチャーエングレーヴィング)が施されています。
モバードのサイン入りコラボレーション
時代を超越した、モバードブランドのエレガントなケースデザインと文字盤は、間違いなく注目に値するものです。
時計、宝飾品、ファッションの各業界から、知名度が高く洗練された多くのブランドが、モバードとのコラボレーションの可能性を求めて名乗りを上げていました。
代表的な作品の多くは、今でもハイブランドとして知られるティファニーやエルメス、カルティエなど他社の名前を冠して販売されており、モバードの時計の信頼性を表現しています。
そして今となっては、これらの時計は貴重なモバードとのダブルサインとも言うべきものになっています。
まとめ
あまり知られていないモバードですが、このように数々の名作を生み出してきました。
時計自体はしっかりとした設計のもとで作られ、高品質の時計を作っていたんですね。
クオーツショックの煽りを受けて倒産してしまいましたが、機械式時計というカテゴリーで見た時には、圧倒的な精度への信頼と技術力を持っていた会社と言えるでしょう。