カナダ軍のミリタリーウォッチ総まとめ
カナダ軍の時計について動画でご覧になる方こちらから↓
この記事は、そんなほとんどの人が気にもならないし興味も出ないであろう、超マニアックカナダ軍のミリタリーウォッチについて解説して参ります。
この記事を最後までご覧頂くことで、なんでカナダ軍の時計がイギリス軍の時計にそっくりなのかが理解して頂けますし、そのイギリス軍の時計との違いも分かると思いますので、どうか最後までお付き合いください。
目次はこのようになっております。
1.カナダという国の成り立ち
2.カナダ軍のクロノグラフは何が違う?
3.カナダ軍に採用された腕時計ブランド紹介
3-1.ロダニア
3-2.バークス
3-3.オメガ
3-4.ブライトリング
最後にまとめとなっております。
それでは早速やって参りましょう。
カナダという国の成り立ち
カナダ軍の軍用時計の前に、まず“カナダ" という国がどのように誕生したのかを解説します。
まず、カナダの起源は17世紀初めにフランス人が入植したことにはじまるのですが、途中からイギリスが入ってきます。
そして、フランスとのいざこざがあった後に、1763年にイギリス帝国の支配下に組み込まれ、1867年にイギリス連邦内自治領となりました。
その後、カナダは1931年にイギリスと対等な主権を持つ、独立国家となったんですね。
とはいっても、まだまだイギリスとの関わりは深く主権者、議会の長、軍最高司令官はカナダの国家元首たるカナダ国王が権限を有しますが、そのカナダ国王はイギリス国王が兼ねることになっています。
ですので、今のカナダの国王はエリザベス2世です。
その他にも、イギリス帝国の植民地を発祥とする、アングロサクソン諸国の機関であるアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの軍用時計にはベースにイギリスがあり、そこから少しアレンジして各国の企画を作っているのです。
例えば、アメリカにはミルスペックという規格がありますが、この規格を決めるときにも、イギリスの航空委員会がアメリカの会議に参加していました。
ちなみに、アメリカ合衆国以外は現在もイギリス連邦構成国です。
私たちは、カナダは最初からあった国だと思ってしまいがちですが、その歴史というのはまだ100年も経過しておらず、どちらかというとイギリス文化時代の方が長いのです。
カナダ軍のクロノグラフ何が魅力?
カナダ軍のクロノグラフは、ぱっと見ではイギリス軍のものとほとんど同じなので、レマニア時代のイギリス空軍の外見との違いは、ほとんどないと思われます。
しかし、カナダ軍の時計の魅力はカナダ軍の要請によって作られたものであるために、最初から軍用時計として設計されているところになります。
基本的には、全部ワンプッシュクロノグラフなのですがその動き方は、普通のクロノグラフとは異なり、クロノグラフをスタートさせたときに途中でリューズを引くと、クロノグラフはストップし戻すと再スタートするという、ハック機能のようなものも搭載されております。
そして、そのクロノグラフの針なのですが他国軍の時計ではあまり見られない『赤』の針が針が使用されており、この針があることでおしゃれな時計になっております。
文字盤の特徴は、オメガ以外の時計の文字盤には会社名が入っていません。
(オメガ製のクロノグラフでも、ブランド名が入ってない個体も存在します)
これは、カナダ軍国防省が要請したものであり、ありとあらゆるブランドネームを排除するように指示しました。
これはおそらく、秘匿性を最優先に作ることを目的としたためだと考えられます。
現在公開中のトップガン マーヴェリックもその個人名が敵国のパイロットに傍受されないように、コードネームが与えられています。
そのため、個人情報はもちろんのこと時計に関しても、どこで作られたものなのかを、他者から隠すためだと考えられます。
そして、何よりカナダ軍の時計は納品された個数がイギリス軍のものと比べて、極端に少なく全ての時計が市場にほとんど出てこない希少性が高いアイテムなのです。
カナダ軍に採用された腕時計ブランド紹介
どの軍隊の時計もそうなのですが、カナダ軍の時計も競争入札によって契約されました。
そのブランドが現在確認できるもので、
・ユニバーサルジュネーブ
・ロダニア
・レマニア
・オメガ
・ブライトリング
・バークス
そのほかのブランドも採用されていましたが、資料がないのでここでは資料がある分だけで解説していきます。
今回は、ユニバーサル、レマニアは資料がないため除外します。
ロダニア(RODANIA)
日本では、このロダニアというブランドを知ってる人はほとんどいないと思われますので、簡単にその歴史と魅力を解説します。
ロダニアは、スイスのグレンヘンにて1930年に設立された比較的新しい会社です。
この時期はほとんどの時計ブランドがアメリカ市場に向けて力を入れる中、ロダニアはカナダ市場向けに、輸出しニッチなジャンルを築きました。
よって、カナダでは有名で信頼のある会社として認識されていました。
そういった戦略が功を奏し、1950年代にカナダ軍と軍用のクロノグラフを製造する契約を結ぶことができました。
何年にもわたって、カナダはいくつかの異なる製造業者とそのような契約を結びました。
時計のスペックは、36.5mmのステンレススチールケース、白文字盤(銘なし)、ワンプッシュでハック機能が搭載されたヴィーナスCal.175が搭載されています。
ロダニアは1950年代後半に契約を結び、1960年代までそれを継続していました。
正確な数は不明ですが、製造数は8000本程度で、ラジウムを使用していた3000本は破壊されたそうです。
時計を正面から見た場合、メーカーの判断はほぼできないと思いますが、ケースの裏側、またはその下にあるものを見ると、メーカーの名前が表示されます。
ケースバックには、カナダ海軍の所有物を示すRCN(Royal Canadian Navy)『ロイヤル・カナディアン・ネイビー』とシリアル番号が刻印されています。
バークス(BIRKS)
カナダ軍の時計の中では、ロダニアとほとんど一緒だと言えます。
搭載してるムーブメントも同じく、ヴィーナス社製Cal.175でありどちらの会社もケースと文字盤だけを自社で作り、ムーブメントはエボーシュメーカーから供給を受けたものです。
ケース径は36mmになります。
このバークスという会社を調べてみたのですが、その歴史は時計ブランドとしては特殊であり、創業者はヘンリーバークスという人物で1879年に、モントリオールの金融および商業地区の中心部にある『セントジェームスストリート』に小さな宝石店をオープンしました。
その後も拡大を続け、1934年には王室御用達として認められました。
この会社は、カナダの「ティファニー」とも呼ばれる有名な高級小売店だったようです。
ティファニーも元々は、文房具屋さんだったのが途中から宝飾品、時計を扱うようになって今でもパテックフィリップと共同で時計を作る高級ブランドとして君臨しています。
おそらく、バークスもそれと同じような立ち位置だったのではないでしょうか?
オメガ(OMEGA)
オメガは腕時計に詳しくない人でも、聞けばどんなブランドか分かると思います。
そんなオメガ社からも、1960年代初頭からカナダ軍に向けて、クロノグラフが作られました。
1回目が1960年でこの時のケースサイズは36mmで2回目が1962年でケースサイズが38mmに大きくなりました。
上記の写真は、38mmのものになります。
実際の納品数は、ファーストが223個で130個は破壊。
セカンドの納品数は443個で150個を破壊。
と記録が残っています。
他の時計もそうですが、ラジウム発光塗料を使用した時計は、放射性物質を放つ為大量の保管には適さずカナダ空軍は積極的にそれらを破壊したのです。
裏蓋には、RCAF『Royal Canadian Air Force』(ロイヤル・カナディアン・エアー・フォース)とシリアルナンバーの刻印が入っております。
ムーブメントは、レマニア社製15CHTにハック機能を搭載させて、Cal.2221が搭載されております。
この頃のオメガと、レマニアは密接な関係がありSSIHグループを作っていました。
SSIHグループは、オメガ、ティソ、レマニアによって構成されるグループのことであり、オメガの時計にはレマニアのムーブメントが入ってることがよくあります。
レマニアの歴史についてはこちらの動画で詳しく解説しておりますので、お時間のある際にご覧ください↓
ブライトリング
航空士、パイロットのブランドといえばブライトリングだと思います。
搭載されているムーブメントは、バルジュー社製Cal.236でありこれはバルジューCal.23にハック機能を搭載させた改良版のムーブメントになります。
これは、Cal.23をベースに6振動(21,600振動/時)と高振動化させたもので、より高い精度、力強さを出せるムーブメントとなっています。
バルジュー社&ヴィーナス社のムーブメントの歴史については、こちらの動画で詳しく解説しておりますので興味のある方はご覧ください↓
ケース径は36mmになります。
秘匿性を重視していた、カナダ軍なのですがブライトリングにだけリューズにブライトリングの象徴であるBのマークが入っています。
よって、デザインにほとんど差異のないカナダ軍の時計を見分ける、分かりやすい外観の唯一の違いになります。
1966年から78年にかけて納品され、カナダ軍に納品された他のブランドの中でも契約期間が長いことが特徴です。
それほど、信頼性と機能性が良かったということでしょうね。
裏蓋に刻印されている「D.N.D.」は「国防総省(The Department of National Defence)」の意味になります。
このDNDの刻印が入ってるタイプのものは、非常に珍しく一般的に市場に出回るのは、RCAF『ロイヤル・カナディアン・エアー・フォース』ですが、こちらは第一世代のもので、DNDと刻印されているのです。
ちなみに、このDNDの刻印はブライトリングにだけしか見られません。
まとめ
カナダ軍の時計も他国の時計と同様に、選抜メンバーが選ばれています。
今の私たちからすれば、お世辞にもバークスやロダニアは無名ブランドであり、憧れの時計ブランドの対象ではありません。
しかし、当時としてはやはり力のあった会社でありだからこそ軍にも採用されているのです。
そして、今も輝くブライトリング、オメガなのですがブランドネームと共に搭載ムーブメントが堅牢製、精度、それまでの軍事として経験を豊富に溜め込んでいた会社である『レマニア』と『バルジュー』社のものを搭載してるというのがより魅力的かと思われます。
カナダという私たちからすれば、遠い国の軍事に採用されたミリタリーウォッチですがこの記事をきっかけに、興味を持って頂けると嬉しく思います。