チェコスロバキア軍のパイロットミリタリーウォッチ(空軍腕時計):MAJETEK VOJENSKE SPRAVY(ロンジン・レマニア・エテルナ)
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チャコスロバキアという国は、1918年から1992年にかけて中央ヨーロッパに存在した連邦国家です。
1939年から、第2次世界大戦までの話ですが、チェコスロバキアはナチスドイツに占領され属国的な感じでした。
第2次世界大戦が終わると、チョコスロバキアは独立しその後1992年にチェコ共和国と、スロバキア共和国に別れ今の形へと続きます。
今日は、そういったチェコスロバキア空軍の時計をメインに解説して参ります。
記事を5つのパートに分けると
1.チェコスロバキア軍の時計の特徴
2.ロンジンの時計の解説
3.レマニアとエテルナの時計の解説
4.イギリス空軍と一緒に戦った『MAJETEK』
5.まとめ
となっております。
チェコスロバキア空軍への腕時計は、第二次世界大戦前の1930年代から大戦後にかけて、ロンジン、レマニア、エテルナの3社によって製造されました。
このパイロットウォッチのケースバックには、チェコスロバキア軍の官有物であることを示す「MAJETEK VOJENSKE SPRAVY」という刻印が押されています。
絶対に推されてるわけではなく、押されてない個体も存在します。
3社共通の特徴としては、
1.ステンレス製の大きなクッション型ケース
2.ブラックダイアル
3.発光塗料が使用されたアラビア数字インデックスと針
4.レールウェイミニッツトラック
などが挙げられます。
秒針に対して、明確な規格がなかったのか、センターセコンド版とスモセコ版が存在します。
ロンジンだけがスモセコを使ってることと、レマニアとエテルナの時計が非常に似ていることから、求められるスペックが途中で変わったのだと思われます。
ここからは、それぞれのブランドにフォーカスして第二次世界大戦の歴史も少し覗きながら、これらのパイロットウォッチの魅力に迫ってみたいと思います。
ロンジン(Longines)
最初にチェコスロバキア政府に時計を納品したのは、ロンジンでした。
ロンジン「MAJETEK」にはムーブメント別に3つのシリーズがあります。
共通していることは、回転ベゼルを回すと内側のポインターが動き、飛行時間を計測することができました。
裏蓋は2種類あり、ファーストはねじ留め式スナップバックケースで、セカンドからはねじ留めがなくなり、普通のスナップバックケースに変わります。
それぞれの文字盤を解説するのですが、ほとんど一緒で違いが分からないと思いますができるだけ、分かりやすく言葉で解説していきますね。
ファーストの文字盤はポーセリンの文字盤で、針はコブラ針です。
一般的に文字盤は、真鍮製でありその上に下地メッキを施し、その上からラッカー塗料を塗って色をつけていきます。
ポーセリンという素材は、磁器のことですね。
ですので、こんな感じの磁器なんですよね。
今回のは、その上に黒いラッカーを塗っているものになります。
ですので、ポーセリンダイヤルの文字盤をよ〜っく見てみると、磁器の粒子感がなんとなく分かるんですね。
ポーセリンダイヤルって今の時計には、ほとんど採用されていませんが昔の時計にはまぁまぁ見られるんですよね。
今となっては希少性が高くなった、ポーセリンダイヤルなんですが弱点がありまして、そもそも大量生産に向いてませんし、磁器なので割れやすいんですよね。
よって、強い衝撃が加わるものにはあまり向いていません。
ましては、軍用の時計ですので余計にポーセリンダイヤルとの相性は最悪なわけですよ。
だから、文字盤も一応厚めに作ってあるんですが、割れやすいことには変わりないんですよね。
ただし、今の私たちから見ればちゃんと手塩にかけて作ったんだなぁ、って伝わる素晴らしい逸品なんですね!
ファーストに搭載されたのは、ロンジンの手巻き式キャリバー15.94です。
このキャリバーは1900年台初頭の懐中時計に使われていたもので、直径34.7mm、厚さ5.65mmとサイズの大きなキャリバーでした。
サードまで、懐中時計に使われていたムーブメントが入ってるのですが、大きい作りであり精度をしっかり出すことできるんですね。
そのため、ケース直径も40mmになります。
今でこそ、40mmのケースサイズの時計は一般的にありますが当時といえば、35mm前後がデフォルトで、ムーブメントだけでここまでの大きさになるとケースも必然的に大きくなるので、当時としては大きめの時計だったと思われます。
ではセカンドの紹介に入るのですが、文字盤はエナメルになります。
これはポーセリンダイヤルの進化で、ポーセリンの素材である磁器の上にガラス質の液体を塗って焼くんですよね。
そしたら、ガラス質がコーティングとなり文字盤に艶感が生まれるわけなんですね。
見た感じがブラックミラーダイヤルのようになるので、ポーセリンダイヤルより高級感がありチェコスロバキア軍の時計の中でも、超人気のモデルです。
セカンドに搭載されたのは、ロンジンの手巻き式キャリバー15.26です。
1929年に開発されたキャリバーで、世界大恐慌の影響から生産数はごくわずかとなっています。
そのため、シリーズ2は500個程度しか製造されていません。
一番生産数が少ないけど、エナメル文字盤という艶感がある文字盤が搭載されてることで、一番人気のあるモデルなんですけどね。
ムーブメントは変わっていますが、内容はほとんど変わっておらずケースサイズもほとんど変わらず41mmで、セカンドになると針はペンシル針になります。
サードになると、文字盤の割れやすさを改善するために、今のスタイルの真鍮製の素材に、黒のラッカー塗料に変わります。
メタルダイアルは、エナメルダイアルの光沢を再現するために、特殊な技術を使って光沢を出してあります。
当時は光沢感のあるダイヤルでしたが、今では経年劣化により艶感はなくなりマットな質感のものがほとんどです。
コストがかかる高級時計から、やっと軍用時計って感じになりましたが、デザインはどっちかっていうと、ファーストに帰化した感じで針もペンシル針からコブラ針に戻ります。
サードに搭載されたのは、キャリバー15.68Zです。
ムーブメントサイズはセカンドのCal.15.26とほとんど同じですが、厚さがさらに薄くなり5.2mmになります。
サードは数も一番多く、3500個ほどが製造されました。
のちに紹介するレマニアとエテルナと比較してロンジン「MAJETEK」はケースサイズが直径40~41mm、縦52mm、ラグ幅24mmと3社の中で1番大きく、別名「Tartarugone(“大きなカメ“の意味)」とも呼ばれています。
このように、軍用の時計とはいいつつも、めっちゃ手が込んだ作りになってて、お金をかけて作ってあるので高級器みたいなんですよね。
この内容を理解することで、どれだけいい時計なのか?ってのが分かって頂けると思います。
そんなロンジンの「MAJETEK」はサイズが大きく、高コストで壊れやすかったため、チェコスロバキア政府は仕様を大幅に見直すことにしました。
その要請に応じたのが、レマニアとエテルナでした。
ではここからは、そんなレマニアとエテルナの時計をご紹介して参ります。
レマニアとエテルナの比較
ロンジンと比較すると、スモールセコンドと回転ベゼルが無くなったことにより、スッキリしたデザインに刷新されています。
どちらの時計もほとんど一緒で、夜光塗料を使ったアラビア数字、黒文字盤、ペンシル針、センターセコンド、正方形に近いクッションケースになっております。
デザインの唯一違うところは、ミニッツトラックの中にエテルナの方は、数字が入ってるところです。
あとは、文字盤なのですがレマニアは製造当時からマットな色調でしたが、エテルナの方は特殊なラッカーを使って塗られていたので、個体によってはまだまだその艶感が残ってるものも存在します。
レマニアのケースサイズは直径38mm、縦が50mm
エテルナのケースサイズは直径38.5mm、縦が48mm
ロンジンと比べると、かなりダウンサイジングされていますね。
裏蓋はねじ込み式タイプになりました。
それでは、ムーブメントを見ていみましょう。
左側がレマニアで、右側がエテルナになります。
レマニアはインカブロック搭載の手巻き式Cal.3050。
エテルナは手巻きしきCal.852Sです。
レマニアの方のムーブメントに注目して頂きたいのですが、ムーブメントの周りにリングがあるのが分かりますよね。
このリング、他の時計でも時々見かけることがあると思うのですが、その役割ってのは、裏蓋を閉める事によりムーブメントを固定するために用いられる『機止め枠』になります。
衝撃が激しいことを想定して作ってあるために、ショックアブゾーバー的な役割もあると思われます。
レマニアは、軍用時計とかクロノグラフムーブメントのエボーシュとして成長してきた歴史があるので、こういった部品も入れることができたんでしょうね。
レマニアとイギリス空軍については、こちらで詳しく解説しておりますのでお時間のある際にご覧ください↓
レマニア(Lemania)
レマニア「MAJETEK」に搭載されたのは、耐衝撃性能インカブロックの付いた17石の手巻き式Cal.3050です。
スモールセコンドは、スイープ運針のセンターセコンドが採用されました。
スイープセコンドの押さえバネ(friction spring)に小さな石が配置され、丸穴車(crown wheel)が従来方式ながら素晴らしい仕上がりになっているのが特徴です。
ケースサイズは直径38mm、縦50mm、ラグ幅22mm、厚さ9mmとある程度の小型化に成功しました。
ダイアルはとてもシンプルになり、
「LEMANIA」のロゴ、アラビア数字インデックス、ミニッツトラック以外の装飾はなく、視認性に優れています。
いかにもミリタリーウォッチという感じですね。
アラビア数字とペンシル型の針にはラジウム発光が施されました。
3社の中で唯一市販されなかったモデルです。
エテルナ(Eterna)
エテルナ「MAJETEK」に搭載されたのは、14リーニュ(約31.5mm)15石の手巻き式Cal.852Sです。
毎時1万8000回振動、50時間パワーリザーブ付きで耐衝撃性能も付いていました。
秒針はセンターセコンド。スイープ運針のセンターセコンド。
ケースサイズは直径38.5mm、縦48mm、ラグ幅21mmとレマニアとほぼ同じサイズですが、もっと正方形に近い印象があります。
ケースは1重でケースバックはねじ込み式、回転ベゼルもなくシンプルなデザインです。
ダイアルは艶のあるミラーダイアルで、「ETERNA」のロゴ、アラビア数字インデックス、レールウェイミニッツトラック以外、何も装飾がありません。
レマニアと同じく、アラビア数字とペンシル型の針にはラジウム発光塗料が塗られました。
イギリス空軍として戦った「MAJETEK」
これらの「MAJETEK」ウォッチの中にはごく稀に、11時方向のラグに「クロスされた2本の剣」が彫り込まれているものがあります。
これはチェコスロバキア軍の軍用品に使われていたマークで、イギリス軍の「ブロードアロー」のようなものです。
このマークが「MAJETEK」ウォッチに彫り込まれたのには、次のような経緯があると言われています。
第二次世界大戦中、チェコスロバキアがドイツ軍に占領されると、多くのチェコスロバキア空軍パイロットはイギリスに亡命し、イギリス空軍に参加してドイツ軍と戦いました。
いくつかの「MAJETEK」ウォッチはこうやって、持ち主と一緒に海を渡ったのです。
そして、その勇敢な戦いぶりを称えるために、この「クロスされた2本の剣」が時計のラグに彫り込まれたと言われています。
まとめ
チェコスロバキア第一共和国は、その規模からして非常に充実した空軍を有していたとされています。
海に面しない国なので、陸軍、空軍に大きな力を入れていたのかもしれません。
そして、今日ご紹介した3つのブランドは、その期待に答えるべく非常に力を入れて作っているのがご理解頂けたかと思います。
黒文字盤にラージクッションケース、視認性の良いセンターセコンド。
こういった時計というのが、なかなか存在しないがために私たちはシンプルでありながらも、このチェコスロバキア空軍の時計を求めてしまうのかもしれませんね。