アメリカ軍が使っていたヴィンテージミリタリーウォッチ総まとめ
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アメリカ軍 ヴィンテージミリタリーウォッチの特徴解説
アメリカ軍といえば、言わずと知れた世界最強の軍隊ですが、そんなアメリカ軍人はどんな時計を身に付けていたのでしょうか。
今日はそんなアメリカ軍ヴィンテージミリタリーウォッチを、第2次世界大戦以降をメインに『陸軍』『海軍』『空軍』に分けて解説して参ります。
アメリカ軍の軍隊の組織編成
まずは当時のアメリカ軍の組織編成をご紹介します。
第一次世界大戦の戦場が、ヨーロッパをメインに展開されていたことによって
ヨーロッパの国々は、軍組織の編成が他国より早く、ヨーロッパの先進国である、イギリス、ドイツ、フランスなどの国は航空戦の重要性を理解し、いち早く『空軍』という組織を作ります。
それがイギリス(1918年)・イタリア(1923年)・フィンランド(1928年)・フランス(1934年)・ドイツ(1935年)でした。
ちなみにソ連は一番早く、1917年に編成されています。
では、アメリカ軍はどのように空軍を保有していたかと言いますと、『陸軍の中の空軍』『海軍の中の空軍』であり『空軍』という独立した組織はなく、陸軍と海軍が航空部隊を持っていたんですね。
ちなみに、当時の大日本帝国も同じ組織編成になっていました。
ではアメリカは、いつから空軍を持つようになったかと言いますと、意外にも遅く1947年9月18日、アメリカ陸軍航空軍が空軍となり、陸軍から独立したのです。
アメリカ陸軍の時計の特徴
当時のアメリカでは、バイアメリカン法という法律があり自国の時計を優先して購入(調達)する制度が敷かれていました。
それは、自国の時計産業の育成と他国に自国の情報を、漏らさないようにすることが目的です。
時計を何個納品したのか?
という情報が漏れれば、それで軍隊数がある程度把握されてしまいますからね。
もちろん、それでもスイス系ブランドからも一定数注文し、購入されています。
ということで、アメリカのミリタリーウォッチというのは基本的には、アメリカのブランドから多く作られそれらのブランドが多く残っています。
第二次世界大戦時の時計
1940年、アメリカ陸軍は第二次世界大戦中の軍用腕時計のモデルとなった、仕様書番号55-1Bの時計を発表しました。
その仕様は
1.石数(ルビー)は最低でも7石以上であること
2.文字盤は夜光針と夜光マーカーを使用すること
3.ケースはステンレス製であること
(しかし実際には真鍮にクロムメッキ製でした)
4.オリーブドラブストラップであること
5.90日間の保証付きであること
6.時計の誤差は1日±30秒の精度のもの
7.”適度な耐衝撃性と防水性”を備えたもの
これらが条件でした。
B-1と呼ばれたこのモデルは、手巻きムーヴメントを搭載しており、主に
・ブローバ
・エンジン
・ハミルトン
・ウォルサム
が製造しました。
これらの時計は陸軍、陸軍航空隊、連合国であるロシア政府、カナダ空軍、海軍、海兵隊に支給されました。
B-1進化型A-11の誕生
戦争の進行とともに、時計の役割は単に時間を知らせるだけではなく、それ以上の要求が増し、部隊の配置や作戦の同期、砲撃位置の確認などが不可欠な機能となったのです。
よって1943年、陸軍によってナビゲーション・ハック・ウォッチの仕様(ハック機能のこと)が発表され、「U.S. A.A.F A-11」と名付けられました。
ミルスペックはMIL-W-3818Aです。
ハック機能とは、リューズを引くことで秒針が止まる機能のことです。
A-11はB-1より複雑なモデルで、15石ムーヴメントの仕様から始まり、過酷な環境下での使用に対する耐久性や、精度の一定基準をクリアできることが求められたスペックでした。
同じように見える時計ですが、ベゼルは2パターン存在し、左側がコインエッジベゼル、右側がスムースベゼルになります。
規格も少し違っており、コインエッジベゼルが防塵仕様、スムースベゼルが防水仕様になっております。
ちなみに、陸軍コードはA-11で、海軍コードはR88-w-800で分類されていました。
このようにA-11は、より細かな仕様書とともに採用されることになりました。
このモデルが採用されたという事は、軍が現代戦において、時計が重要な要素であることを認めたことを表しています。
そして、黒文字盤と白文字盤の両方のモデルが製作され、ステンレススチールとオリーブドラブまたは黒のコットンバンドが使用されています。
アメリカ海軍特殊潜水艦部隊の時計
A-11の規格が発表された翌年の1944年、ノルマンディー上陸作戦で海岸に落ちた機雷を除去するため、海軍はフロッグマンのNCDU(Navy combat destruction unit/海軍戦闘破壊部隊)を編成し、水中でも過酷な任務に耐えうる時計が必要となりました。
このことから、海軍によってFSX-797が発行され、防塵・防湿機能をスペックに追加し、水中での圧力テストが行われ防水性を検査し、これにより、ケースの外側にチェーンで取り付けられた、リューズキャップ付きの「ネイビー・バシップス・ダイバーズウォッチ」が誕生しました。
このバシップス・ダイバーズウォッチは『ハミルトン』と『エルジン』の2社が製造を任されることとなります。
その特徴的な、リューズキャップから水筒を彷彿とさせるとして
(=Canteen)『キャンティーンダイバー』とも言われます。
共通するところは、
・黒い文字盤には夜光塗料が使われた数字と針
・スクリューバック
・ケースサイズは32mm
などがありますが、よくよく見てみると微妙にデザインが違います。
リューズキャップは、エルジンの方が長くハミルトンの方はコブラ針が使われています。
文字盤なのですが、ハミルトンの方は12時位置に白文字でUSN BUSHIPSが入っていますが、エルジンの方は6時方向に隠されるように記載されています。
ブランドロゴは、ハミルトンの方は6時位置に、エルジンの方は12時位置とそれぞれ逆転して印刷されています。
特にエルジンの方は、ぱっと見ではどこのブランドなのか?
なんの時計なのか?
というのは、全く分かりません。
なぜ、黒文字盤に黒文字の印刷がされてるかと言いますと、敵地の偵察などをはじめとする工作任務を行う特殊部隊に支給されたモデルなので、所属や使用 目的などが判明してしまわないように、見えにくくすることと、多くの情報を載せないようにしたのです。
ケース裏にはUSNまたはUSN BuShipsの刻印が施されています。
USNの意味はアメリカ海軍(United States Navy)
BUSHIPUSの意味はアメリカ海軍船舶局になります。
リューズキャップをしっかり閉めた状態なら300フィート、約90mの防水性を誇ったと言われます。
アメリカ軍『SEALDs』採用の歴史
キャンティーンダイバーズウォッチの次期型に当たるのが、ブランパンのフィフティ・ファゾムスTR-900です。
1964年後半と1966年半ばの2回納品され、米軍仕様MIL-W-22176Aに準拠した合計約1,000個の時計が、米国の子会社であるTornek-Rayville社を通じてBlancpainから提供されました。
ですので、形はフィフティ・ファゾムスなのですが文字盤を見て頂くと
「Tornek-Rayville」と入ってるんですよね。
そして、ムーブメントにはアメリカ海軍特殊潜水部隊に配られたことを表す、TR-900の刻印も入っております。
Tornek-Rayville社というのは、ブランパンアメリカ代理店みたいなものとイメージされてください。
ブランパンとTornek-Rayvilleの話は、こちらで詳しく解説しておりますのでお時間のある際にでもご覧くださいませ↓
スペックをクリアしたという意味である、MIL-W-22176Aの刻印が裏蓋からも確認できます。
ファゾムスのダイバーズウォッチの特徴は、『水密性表示機能』が搭載してあることです。
これは、何らかの理由で時計の中に水が入り、時計の精度が狂わないようにする機能です。
基本的に時計は、ほとんどの国では軍が管理し、ダイビングの際に個人に渡されます。
ダイバーたちは、前のダイバーが使った時計が問題がないことを確認してダイビングしないといけません。
なぜなら、時計の精度の狂いは生死に関わるからです。
時計が支給された際、ディスクの半分がブルーであれば、水が入っていないことを確認できるため、ダイバーは安心して装着することができます。
よって、ミルスペックには『水密性表示機能』があるのです。
これは6時位置にあるディスクが、ホワイトからレッドに変わることによって異常を知らせます。
この規格に対応した、新しいフィフティファゾムスを作り、アメリカのフィラデルフィアのフランクフォード兵器廠(へいきしょう)で実施される、ミルスペック試験に挑むこととなります。
1957~59年にかけて、スイスのさまざまなブランドやその他の国のブランドが参加しました。
そんな中、全ての試験に合格を果たしたのが『フィフティファゾムス』だけだったのです。
バイアメリカン法がある中でも、このようにスイスのファゾムスの時計が選ばれたということなので、ハンデありで採用されたということは他を圧倒する力を持っていたのでしょうね。
今もコレクターがたくさんいる、当時のファゾムスなのですがいつも通り現場での使用が終わった後に、軍によって破壊されてしまったので生き残ってるのは、ほんの少数だと言われています。
次期型ダイバーズウォッチ ベンラス
1970年代初頭、アメリカ軍はMIL-W-50717の軍仕様のダイバーズウォッチの詳細な設計図を書き上げ、ベンラス社へ製造を依頼しました。
しかし60年代後半になってくると、軍事費予算が削減されそれが時計にも影響を与えます。
これまでの、高品質な時計を作って壊れたら修理をする。という方法では採算が合わなくなったために、新しい発想として使い捨ての時計(ディスポーザブルウォッチ)が誕生しました。
このベンラスの時計の特徴は、ディスポーザブルウォッチでありながらも、高機能であるということです。
基本的には、アメリカ海軍特殊部隊に支給された時計ですが、その他にも、陸軍特殊部隊、陸軍レンジャー部隊、CIA海洋部隊にも支給されています。
ワンピースケースが採用されており、堅牢性と防水性が高められているのが感じられます。
ちなみに、150m防水となっております。
この時計は、2つのタイプが製造されました。
タイプIとタイプIIです。
では、それぞれの時計を見てみましょう。
左がTYPE I で右がTYPE II になります。
共通点は、2つともインデックスと針には夜光塗料が使われており、回転ベゼルが搭載されております。
そしてこれらのタイプは、文字盤を見ればその違いは簡単に見分けられます。
タイプIは12時の位置に三角インデックス、3時、6時、9時にバーインデックス、その他の時刻にドットマーカーが施されています。
それに対してタイプIIの文字盤は、従来の24時間表記で、時刻ごとに小さな三角インデックスが配置されています。
Class AとBの違いなのですが、タイプIIにはClass Bというバージョンも存在します。
Class Bの時計の文字盤や針には夜光塗料が使用されず、微量なトリチウムにも反応してしまう恐れのある、原子力潜水艦のような場所で使用されていました。
本来であれば、三角マーカーの部分と、針の中央はほんのりイエローなのですが、真っ白になっていますね。
これは原子力潜水艦の中であっても、視認性を確保できるようにということで、黒文字盤の反対色である白が使われています。
ケースの裏面には
・ミルスペック番号
・メーカー名
・品番
・契約番号
・製造年月日、
・シリアル番号
が刻印されています。
ベンラス社のタイプIとタイプIIの製造期間は、1972年から1980年の約10年です。
その間に製造されたタイプIクラスAは約6,000台、タイプIIクラスAは9,000台強、タイプIIクラスAは不明、タイプIIクラスBは約1,000台が生産されました。
ですので、クラスBが激レアの時計になるんですね。
アメリカ空軍に採用された時計
1947年に陸軍、海軍から空軍が独立するのは冒頭でも説明しましたが、それまでは空軍もA-11を使っていました。
そして、空軍組織が結成された際に新しいパイロット用の時計が誕生します。
1950年から1956年(朝鮮戦争時代)に、新規格MIL-W-6433(TYPE A-17のことですね)を、作りそこで採用されたのが、アメリカ空軍用の時計でした。
このTYPE A-17の製造は、ウォルサムが行っていました。
※ウォルサム TYPE A-17
※ウォルサム TYPE A-17の裏蓋
※ウォルサム TYPE A-17のムーブメント
このスペックに当てはまるものが、TYPE A-17でありこれらは先ほど説明した、A-11の進化版に当たります。
A-17は、パイロットと飛行士のためのナビゲーション時計として設計され、そのスペックは
・ラジウム塗料を使ったアラビア数字と針
・5分間隔のインデックス
・補助的な24時間トラック
でした。
A-11から進化してる大きなところは、真鍮にクロムメッキだったのがケースの全てが、ステンレススチールになっていることです。
そして、1956年TYPE A-17の進化型が誕生するのですが、これがMIL-W-6433A(TYPE A-17Aのことですね)ブローバとエルジンが製造することとなります。
TYPE A-17と比較すると、コインエッジベゼルがスムースベゼルに変わってるtところと、スナップバックがスクリュータイプに変わってるくらいで、ほとんど違いはありません。
1960年代後半から70年代にかけてのグリシン エアマン
この次に採用された時計が、グリシン社の『エアマン』という時計になります。
それまでの時計は、まだ陸軍用の時計に近かったのですがエアマンに変わると、かなりパイロットウォッチらしくなります。
ただ、このエアマンは正式な軍用時計ではありませんでした。
補足でお話しさせて頂きますが、軍によって支給される時計は、国防総省により製造委託を受け、費用は政府予算に計上されます。
一方、ミリタリースペックに準拠している市販の時計(軍人が使ってた時計と同じ外装だけど、裏蓋の刻印が違ったりするもの)は、戦場に同行することはあっても、政府によって調達されたことはありません。
だから、分かりやすくいうとお金を政府が出すか、別の機関(個人)が出すか。の違いですね。
このエアマンは、後者に当たります。
ベトナム戦争のパイロットに愛用された、エアマンなのですがアメリカ政府に採用されたものではありませんでした。
※ グリシン エアマンのムーブメント Cal.1700/01
機能がいきなり近代化してるのですが、パイロットに好まれる機能が多数搭載され、愛用されていたのも頷けます。
少し特殊な構造なのですが、短針は24時間で一周します。
長針はそのまま、長針の役割を果たします。
短針に注目して頂きたいのですが、短針のお尻の部分に短い針が出てるのが見えると思います。
これは24時間表記と、12時間表記を同時に確認することができる針なのです。
ですので、今画像からは短針が20時方向にあり、お尻の短い針は8時を指していますが、24時間表記なら20時であり、12時間表記なら8時ということですね。
そして、デイト表示があり2つの国の時間を知ることができる、回転ベゼルGMT機能が搭載されています。
まとめ
世界最強の軍を持つ、アメリカ軍のミリタリーウォッチを紹介したのですが、私の個人的な感想としては、ヨーロッパ大陸とは違いアメリカ大陸らしさ(オリジナル性)があってカッコいいなぁと感じました。
ファゾムスはフランス軍にも採用されてたのですが、特にベンラスのタイプ1はシンプルでありながらも無骨さを感じさせる、男心をくすぶる時計ではないかと思います。
ミリタリーウォッチによくある、よくよく見ないと分からない微妙な違いがあるところも面白いですよね。