オメガ 歴代スピードマスター進化論

動画でオメガ社のスピードマスターの歴史をご覧になる方はこちらから↓

オメガの代表モデルといえば、やはりスピードマスターでしょう。

初代が1957年に誕生して以来、現在まで続く超ロングヒットモデルでありオメガのアイコン的な存在です。

そんなスピードマスターなのですが、世界で初めて宇宙に行った時計というのは知ってても、そのスピードマスターがどんな進化を経て今に至るのかを知ってる方は、あんまりいないのではないでしょうか。

ということとですね、今日はそんなスピードマスターをモデルごとに分類して、それぞれの特徴を解説して参ります。

この記事を最後までご覧頂くことで、それぞれのシリーズの特徴が理解できますし、よりスピードマスターを気に入って頂けると思いますので、是非とも最後までお付き合いください。

それでは早速やって参りましょう。

 

レース用として開発されたスピードマスターの歴史

 初めて月に行った時計として認知されているスピードマスターですが、初めから“ムーンウォッチ” として設計された時計ではありませんでした。


1957年に発表されたマスターシリーズは、ご存知の通りシーマスターとレイルマスターとスピードマスターです。

シーマスターでは優れた防水性を、レイルマスターでは優れた気密性と耐磁・耐衝撃性を与えることで、それぞれシーンに応じたプロフェッショナルウォッチとなりました。

そして、コンパクトサイズのムーブメントCal321を搭載させたことで、スピードマスターはシーマスターとレイルマスターで培った防水、機密、耐衝撃性を備えた最強のクロノグラフとして世に送り出されたのです。

そんなスピードマスターですが、元々はどんなシーンで使われることを想定して作られた時計なのかを見てみましょう。

オメガ スピードマスター レーシング用のカタログ

こちらは、1950年代のスピードマスターの広告なのですが、このようにレースシーンで使われる時計として宣伝されていました。

要するに、モデル名に付けられた『スピード』というのは、レーシングカーを操るドライバーを手助けすることを目的とし、モータースポーツシーンでの使用を想定して開発されたクロノグラフだったんですね。

掲載しているカタログの左と中央は、ベゼルがステンレスで作られており、これはRef.CK2915であり、初代のスピードマスターの特徴です。

ロレックスと動画でも解説していますが、この頃、宇宙の後にすぐモーターレースブームが起きていたので、時計各社はそれぞれのブランドのポジションを際立たせる必要があったんですね。

そして、宇宙を取られたロレックスはモータースポーツの方でデイトナと作ったということなんです。

ロレックスのデイトナの歴史についてはこちらの動画をご覧ください↓



ここまで各社が、モータースポーツ用のクロノグラフに力を入れたのには理由があります。

当時のスポーツカーのエンジンは、音も振動もかなり大きく、旧型のクロノグラフではムーヴメントがその振動に耐えることができず、故障が相次ぎ使い物にならなかったなんですね。

そんな不具合が多く発生するモータースポーツのシーンに対して、オメガが考えたのはそれらを吸収することが出来るとともに、時間を正確に図ることが出来るクロノグラフの開発でした。

よって、スピードマスターはコンパクトサイズのムーヴメントを採用し、その余ったスペースにムーヴメントを保護する、インナーケースを採用することで耐衝撃性が高められ、この耐衝撃性に優れた構造は当時のドライバーたちから大いに評価されたのでした。

オメガ スピードマスター 赤い所がインナーリング

それと同時に、ベゼルの上にタキメータースケールを配置するという機能的で視認性に優れたデザインは、その後のスポーツクロノグラフのあり方に大きな影響を与えたとも言われています。

このように、実はオメガのスピードマスターはモーターレースのシーンで使って貰えるようにPRを行い、実際にそこで使われていたという歴史があるんですね。

では、いつからNASAに採用された時計になったのかを見てみましょう。

 

NASAに採用されたオメガのスピードマスター

オメガの公式によると、スピードマスターがNASAに正式に採用されたのは1965年となっております。

1964年NASAによる、人類初の月への有人宇宙飛行計画であるアポロ計画では、当時のアポ口計画装備品担当官、ジェームズ・H・ラーガンは多くの時計ブランドに宇宙で使用することを想定した、クロノグラフのサンプル納入を依頼しました。


対して、それに応えた時計メーカーはオメガを含めた、4社だったと言われています。

ではNASAから与えられた基準を見てみましょう。

NASAが時計メーカーに与えた仕様に関する陳述書

オメガ スピードマスター11項目の公式装備品性能テスト

仕様に関する陳述については、全部読む。

11項目の公式装備品選定性能テストについては、タイトルだけ読む。


かなり審査基準が厳しい試験でしたが、歴史が示す通りNASAの装備品選定計画の基準をクリアできたのは1社だけであり、もちろんそれはオメガのスピードマスターだけでした。

この時点で、いかにオメガ社のクロノグラフが先行した技術力を持っていたかが分かりますよね。


そして、過酷なテストを見事にクリアしたスピードマスターは“あらゆる有人宇宙ミッションの飛行に適している”という認定を受け、翌65年からNASAの公式装備品となった。

その後のスピードマスターの活躍は、多くの人が知る通りであり“月に行った世界初の腕時計=ムーンウォッチ”として、時計史にその名を刻んだのです。

このように歴史のあるスピードマスターは、半世紀以上を経た現在も、有人宇宙ミッションや、国際宇宙ステーションで使用が許可されており、絶大な信頼を得ているのです。

スピードマスターの誕生秘話を見ていくと、宇宙で使用されることを想定して対策を取られた時計ではなく、純粋に時計を過酷な環境にも対応できるように作り込んだ結果、最終的に宇宙でも使用できる時計になっていたと表現した方が正しいかもしれません。

 

 

歴代スピードマスターを比較していこう 

今にも続くスピードマスターですが、それらの歴代モデルの特徴やどのように進化していったのを見てみましょう。

 

初代 Ref.2915-1

オメガ 初代スピードマスターRef.2915-1と搭載ムーブメントCal.321

こちらのスピードマスターは1957年に誕生し、翌年58年に発表されたスピードマスター 初代モデルです。

その特徴はなんと言っても、ベゼルの全てはステンレス素材を使用していることと、シーマスターを彷彿とさせるアローハンドに夜光でしょう。

私たちは一般的に、ベゼルは回転ベゼルだと考えていますが実はこのベゼルは、そのままベゼルに刻印しているもので独立したベゼルではありません。

ですので、ケースをベゼル風に見せていると言った表現の方が正しいかもしれませんね。

サイズは、スピードマスターとしては意外と小ぶりでベゼル径は39mmでした。

ファーストモデルは、最初の2年間だけ生産されたスピードマスターの中でも非常に希少なモデルです。

搭載されてるムーブメントは、滑らかなコラムホイール方式の名機Cal.321を搭載しており、これは第4世代まで受け継がれました。

 

ムーブメントについては、後ほど詳しく解説しますね。

 初代モデルの裏蓋のSPEED MATERの刻印

ケースバックの外縁部分には、モデル名である『SPEEDMASTER』の文字がをエングレービングで刻印されております。

オメガ マスターシリーズ3部作

各ファーストモデルが、CK 2913(シーマスター300)、CK 2914 (レイルマスター)、CK 2915 (スピードマスター)というレファレンスナンバーを持つことから も、マスターシリーズとして誕生させたことが分かります。

  

 

2代目 Ref.2998

オメガ 2代目スピードマスター Ref.2998 搭載ムーブメントCal.321

ファーストモデルから2年後、 1959年に製造が開始されたのがセカンドモデルになります。

大きな変更点は、アローハンドからアルファハンドに変更されているところです。

これは、時刻が見やすい反面、インダイアルを隠す部分が大きくなってしまい見にくか ったアローハンドに対して、文字盤全体の視認性を優先して変更されたものでした。

タキメーター表記はベゼルに直接刻印ではなく、ブラ ックカラーのアルミプレート仕様に変更されました。

2代目スピードマスターの裏蓋

裏蓋も、私たちがよく目にする海馬の刻印とオメガのマークが入るようになり、より現代的なデザインに近づきました。

2代目モデルで特筆すべき点は、なんと言ってもこの時計が初めて宇宙に持って行かれた時計ということです。

1962年、ウォルター・シラーという方が宇宙で身に着け、この時に初めてスピードマスターと宇宙が関わりを持つようになりました。

 

 

3代目 Ref.ST105.003 & 4代目 Ref.ST145.003

オメガ スピードマスター 3代目 Ref.ST105.003-&-4代目 Ref.ST145.003

ここでは短命に終わった3世代とその次に来た、4世代目のモデルをまとめて解説します。 

第3世代に分類されているST 105.003が登場するのは1962年からになります。

2世代目からは大きな変更は見られませんが、針で文字盤を隠さないように更に視認性が良いバトン針に変更されます。

またクロノグラフの針の先端にも、夜光ポインターが入り暗い場所でもクロノグラフの計測が明確にできるようになりました。

サードモデルでの特筆すべき点は、やはりNASAによる装備品選抜テストに掛けられ合格したモデルであるということでしょう。

ウォルターシラーさんは、個人的にスピードマスターを持参しましたが、月面着陸時にニールアームストロングさんが身につけていたのは、NASAの厳しい基準をクリアしたこの3代目モデルだったんですね。

 では次に4代目を見てみましょう。

第4代目スピードマスターのリファレンスは、Ref. ST145.003になります。

大きな変更点としては、プッシュボタンとリューズの間にリューズガードが追加されより壊れにくい構造になったこととそれと同時にケース径も42mmと大型化されることになりました。

文字盤を見てみると、それまではOMEGA SPEEDMASTERだけだったのが、その下に『PROFESSIONAL』(プロフェッショナル)の表記が入り、アポロ計画による人類初の月面歩行時に使用されたモデルと、一目で分かるようになりました。 

 

4代目まで搭載されたCal.321ムーブメント 

4代目までの説明が終わった所でここからは、4代目まで搭載されていたCal.321ムーブメントについて解説してまいります。

このムーブメントの設計を手掛けたのは当時、オメガと同じSSIHグループに属していたレマニア社の設計士であるアルバー ト・ピゲという方です。

1942年に自身が製作したCal.27CHROを基本ベースとし、小振りで薄く、耐久性と生産性を考慮した設計が特徴です。

この薄さとコンパクトというのは、スピ ードマスターの頑丈な時計のイメージに必要不可欠でした。

よって、前述した通りケースの中にインナーケースを装備し、その中に入れることができるコンパクトムーブメントが必要となったのです。

 

レマニア社製ムーブメントとオメガ社製ムーブメントの比較

左がレマニア社製Cal.27CHRO 12Cで、右がオメガCal.321になります。

このCal.321ムーヴメントは、レマニアのCal.27CHRO 12Cのオメガ版であり、"27 CHRO" の27mm径のクロノグラフの意味を持ち、C12は12時間積算計の装備を意味します。

当時は30mm径でも小さいとされていましたが、Cal.27 CHRO C12 (Cal.321) はさらに小さな27mm径を実現させます。

小さいながらもパーツ類は比較的太く、耐久性も考慮された作りになっているのが特徴です。

レマニア社について、ご存知でない方はこちらの動画で詳しく解説しておりますので、興味のある方はご覧ください↓

 

  

5代目 Ref.ST145.022

オメガ5代目スピードマスターRef.ST145.022 搭載ムーブメントCal.861

1968年になると、5世目モデルであるリファレンスRef.ST145.022が誕生します。

外観は4代目とほぼ同じですが、大きく変更されたのはムーブメントです。

人件費の高騰により、コラムホイール式の生産では採算が合わなくなってきた60年代のスイス製ムーブメントですが、それを打開するために開発されたのがカム式のムーブメントです。

実際にコラムホイールと比較するとコストを削減されており、コラムホイールの廉価版と表現されることも多いカム式ですが、ブレーキレバーを搭載しており構造的にはほとんど同じで、それぞれのパーツは太く厚く作られるなど完成度はより高まっています。

ちなみに、3代目の時点でこのムーブメントは完成しておりましたが、NASAのテストに出す際には実績と信頼性が確保されたCal.321が出されました。

軍用のムーブメントもそうですが、そういった絶対に間違えてはならないシーンにおいては、最新かどうかよりもそれまでの実績が優先されるのでしょうね。

オメガ スピードマスターの裏蓋の刻印『THE FIRST WATCH WORN ON THE MOON』(月面で着用された最初の時計)の文字とともに "FLIGHT-QUALIFIED BY NASA FOR ALL MANNED SPACE MISSIONS”(すべての有人宇宙ミッションで NASA の飛行資格を取得)

また、ムーンウォッチという肩書きを得たことによって、70年以降のモデルでは、ケースバックに 『THE FIRST WATCH WORN ON THE MOON』(月面で着用された最初の時計)の文字とともに "FLIGHT-QUALIFIED BY NASA FOR ALL MANNED SPACE MISSIONS”(すべての有人宇宙ミッションで NASA の飛行資格を取得)という文字が刻印されるようになりました。

このモデルは、6代目が誕生する1996年まで生産が続けられました。

約30年間の間、同じモデルが生産されていた超ロングモデルだったんですね。 

 

 

6代目 Ref.3750.50

6代目 オメガ スピードマスターRef.3750.50 搭載ムーブメントCal.1861

1996年から登場したのが6代目モデルのRef.3570.50になります。

外観上では5代目と大きな変更点はありませんが、ムーブメントが変わっています。

Cal.861と見た目はほとんど変わりませんが、カウント方式の変更によって、石数が1つ増えたことによって、キャリバーナンバーもCal.1861になっております。

かといって、構造的に大きく変化したわけではなく、これまでの赤金メッキやイエローゴールドメッキ仕上げから、ロジウムメッキ仕上げに変更されていることです。

これらは、それぞれムーヴメントに使用されるパーツの耐食性や耐熱性、耐摩耗性などをアップさせるための処理を目的にしていますが、コスト面では従来の仕様よりもロジウムのほうが安価であり、同じ性能を持ちながらもコストダウンにつなげることが出来たからです。

 

この6代目ですが、20年弱も製造されてきましたが、2011年に現行モデルが誕生したことで製造終了になりました。

 

まとめ 

スピードマスターという時計の歴史と成り立ちを知ることで、宇宙に連れて行かれた時計というのが、ただの肩書きでないのが理解頂けたのではないでしょうか。

4社から選び抜かれた、オメガ社というのはそれだけの技術力を持ち、堅牢に作るための工夫を、全てのパーツにおいて行い試行錯誤の上に誕生したモデルなのです。

誕生からほとんどデザインが変わらないこのモデルなのですが、他のブランドの超ロングヒットモデル同様に、最初の時点で作り込みが行われているために、その後もずっと小さな改良だけで済む典型だと言えるでしょう。

そして、この時計に与えられた『ロマン』を知ったときに私たちはよりスピードマスターに心を引かれるのでしょうね。