ブランパンを甦らせる【フレデリックピゲ】の歴史と代表ムーブメント解説
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現在のフレデリック・ピゲのポジション
まず最初に、現在のフレデリックピゲの状況を見てみましょう。
現在は、スウォッチグループの高級ブランドである「ブランパン(Blancpain)」専属でムーブメント開発と製造を行う会社になっています。
そもそもブランパンなのですが、ご存知の通り時計業界の中では創業が最も古く1735年であり、歴史のあるブランドです。
クオーツショックの時に、歴史が休業状態に入ってしまったので、歴史は一度途絶えていますが、それでも素晴らしいブランドであることには変わりありません。
そして、クオーツショックの頃である1982年、ジャンクロード・ビバーっていうスイスの機械式時計を復活させようぜ運動のリーダー的な人と、フレデリックピゲの代表のジャック・ピゲによって、ブランパンは買収されることとなります。
この時点で、ブランパン専属のフレデリックピゲって構図が完成してたんですね。
当時のブランパンの代表は、クオーツウォッチを作るくらいならブランドを廃業する!とまで言ってたので、フレデリックピゲはムーブを乗せるブランドが欲しいし、ブランパン側もしっかりしたムーブメント会社が欲しかったはずですので、お互いの思想がマッチしてたんだと思いますね。
そして、その10年後の1992年に、このブランパンとフレデリックピゲがスウォッチグループに買収されて、今のスタイルに落ち着いているということになります。
多分、パテックみたいな独立系としてやって行きたかったんでしょうが、この頃のブランパンって知名度も地に落ちてましたし、ブランドの再構築ってのは簡単ではなかったのでしょう。
この頃までが、フレデリックピゲが別ブランドにもムーブメントを供給していた時代ですね。
その後、2000年代後半にフレデリック・ピゲの名前は公式には使われなくなり、2010年には正式にブランパンの工場として組み込まれ、今はブランパン・マニュファクチュールという名前になっています。
ちなみに、同じグループに似たようなスタイルのレマニアとブレゲの関係があって、レマニアは現在ではマニュファクチュールブレゲとなっております。
この詳細については、こちらの動画で解説しておりますので、気になる方はご覧ください↓
こんな感じで、現在ではフレデリック・ピゲが持っていた技術や伝統は、ブランパンのムーブメント部門に引き継がれ、時計製造が続けられています。
例えば、フレデリック・ピゲが開発したムーブメントCal. FP1185は今もなお多くの高級時計に搭載されており、ブランパンだけでなく、他のスウォッチグループ傘下ブランドにも影響を与えています。
したがって、フレデリック・ピゲ自体は独立した会社としては存在しませんが、その技術と遺産はブランパンを通して存続していると言えるでしょう。
高精度で信頼性が高く、薄型の設計が特徴のムーブメントは、長年にわたって多くの一流時計ブランドから信頼を集めてきました。
フレデリック・ピゲの歴史は、スイス時計業界の発展とともに歩んできたものであり、その技術革新の数々は今日もなお、多くの時計ファンや専門家から高く評価されています。
こんな感じで、フレデリックピゲの現在がある程度分かった所で、ここからはその歴史を簡単に解説しますね。
フレデリック・ピゲ創業と成長の歴史
フレデリック・ピゲは、1858年にスイスのジュウ渓谷(Vallée de Joux)で設立されました。
もう大体スイスの腕時計の創業といえば、9割型ジュー渓谷ですからね。笑
創業者であるフレデリック・ピゲは、ムーブメントの製造に特化し、信頼性と精度の両方を追求することを目指して事業を展開しました。
フレデリックピゲはスイスのル・ブラッシュでムーヴメント工場として1858年に設立され懐中時計から腕時計へ急速な進歩を遂げました。
ブランドの哲学に、最高級時計に使用されるキャリバーは最小、最薄、且つ、唯一のコンプリケーションであり、特殊分野に特化する、という考えもっており、そこにはフレデリックピゲの情熱が根底にありました。
薄型ムーブメントの分野では、他に類を見ない技術力を持っており、特に手巻きや自動巻きクロノグラフムーブメントの薄型設計において大きな成功を収めました。
1980年代に入り、高級時計ブランドとの協力関係を深め、パテック・フィリップやブレゲ、カルティエなど多くの一流ブランドのためにムーブメントを供給している歴史もあります。
というわけで、ここで簡単にその棲み分けを確認しましょう。
薄型ムーブといえば、歴史上ジャガールクルトとピアジェが得意としてきた分野です。
クロノグラフムーブメントいえば、レマニア、ヴィーナス、バルジューが得意としてきた分野です。
ここからも分かる通り、フレデリックピゲが収めたポジションは、これらの会社が実現出来なかった薄型のクロノグラフムーブメントということになります。
もちろん、普通の3針ムーブメントでもジャガー、ピアジェに肩を並べていますが、3針時計よりも3倍のパーツを必要とするクロノグラフムーブを、しかも薄型で作り上げてしまうってのは、もう圧倒的な技術力が必要なんですね。
というわけで、フレデリックピゲが生み出してきたムーブメントを一緒に見て行きましょう。
フレデリックピゲの代表ムーブメント
ではこちらの表をご覧ください↓
こちらは、フレデリックピゲ社が生み出してきた、代表ムーブメント一覧です。
表の見方ですが、一番左がムーブメントNo.その右がおおよその年代、その右が特徴でこの特徴のところに、そのムーブメントがどんなタイプかをテキストに色をつけて分けています。
赤文字が手巻きで、ブルーが自動巻、グリーンが手巻きのクロノグラフ、紫が自動巻のクロノグラフムーブメントって感じです。
そして、一番右が搭載されていたモデルでございます。
というわけで、これらのムーブメントを全部詳細に説明しても面白くないと思いますので、メインはCal.1180とCal.1185として残りはサラッと解説して参りますね。
まずCal.21なのですが、これは1970年代のタンクルイカルティエに搭載されています。
薄型の手巻きが必要なモデルの代表である、タンクルイにはこのムーブメントが搭載されていたんですね。
基本的には、その会社に納品された時にその会社で色々チューニングしてキャリバーナンバーも変更してしまうのですが、カルティエはこのフレデリックピゲではそれをせずに、そのままのキャリバーナンバーを使用しています。
ただし、ムーブメントの刻印にはCARTIERが入っています。
Cal.71はブレゲクラシックの中で、Cal.502として搭載されていました。
ブランパンのヴィルレ ウルトラシンでも採用されていますが、こちらはキャリバーナンバーは変わらずブランパンCal.71となっております。
薄型の自動巻なのですが、高級モデルに採用されており自動巻きでありながらも、ドレッシーさが必要なモデルに搭載されていました。
ではここからが本題ですね。
まずCal.1180とCal.1185はクロノグラフのムーブメントであり、Cal.1180は手巻き、Cal.1185は自動巻です。
これらはどちらも高級ムーブメントに分類され、どちらもそれぞれのブランドの高級モデルに搭載されてきました。
こちらがCal.1180ですね。
高級ムーブメントにふさわしい、コラムホイールとキフ ウルトラフレックスが装備されています。
ちょっと見にくいと次のCal.1185で大きく見えるので、ここは流し見でお願いします。
キフ ウルトラフレックスは、ここにテンプってパーツがあるんですがここの芯がめっちゃ細いんですよね。
ですので、ちょっとの衝撃でそこが折れてしまうんですよ。
そこを折れないように、守るためのパーツってことですね。
ここの構造がどうなってるかを詳しく知りたい方は、こちらの動画をご覧ください↓
インカブロックとの大きな違いは、縦方向の衝撃に強いことですね。
そして、Cal.1185はCal.1180をベースに作られています。
こちらがブランパン ヴィルレ クロノグラフに搭載されていたCal.1185ですね。
まずこれらの何が凄いかというと、『薄さ』です。
ムーブメント自体の薄さが3.95mmでありかなり薄いことです。
単体で見てみると分かりにくいと思いますので、比較を出すと、手巻きクロノグラフの高級モデルには、レマニアのCal.2310がありますがこのムーブメントの厚さは6.74mmです。
その差は2.8mmです。
500円玉の厚さが2mmあるので、500円玉を被せてもフレデリックピゲのCal.1180の方が薄いのです。
こんな感じで、元々の手巻きクロノグラフのムーブが薄いので、それをベースに作ってある自動巻バージョンのCal.1185も極薄で仕上げてあります。
そして、Cal.1185の厚さは5.5mmと自動巻でありながらも、レマニアの手巻きクロノグラフよりも薄型になっています。
また、これらのムーブメントが凄いのが、高級クロノグラフムーブメントの特徴である「コラムホイール」が採用されていることです。
いつも動画で話してるんですが、コラムホイールは高級ムーブメントに使用されるパーツです。
こちらのパーツですね。
詳細についてはこちらの動画で解説しておりますので、気になる方はご覧ください。
比較されるパーツにカム式があるのですがコラムホイールにすることで、クロノグラフの操作性が向上し、ボタンの操作が非常にスムーズになります。
これにより、ムーブメントの寿命が長くなり、耐久性も向上しています。
そもそも、自動巻にコラムホイールを採用するってこと自体がかなり難しいんですよね。
コラムホイール機構を追加すると部品数が増え、ムーブメントが厚くなりやすいです。
特に高級ムーブメントで薄型を維持したい場合、スペースの設計には高度な技術が求められます。
ただし、それを実現できているのがCal.1185の凄いところでしょう。
そのほかにも、Cal. FP1185は、クロノメーター規格を満たすほどの高い精度と信頼性を備えています。
加えて、自動巻きローターは耐摩耗性が高く、長期使用に耐えうるような設計がなされています。
このように、フレデリックピゲの強みというのは、元々が薄型に仕上げることが出来ることであり、そこのフィールドのムーブメントを極限まで高品質で製造することが出来たことだと言えるのです。
ではここからは、そんな自動巻Cal.1185を搭載しているモデルを見ていきましょう。
自動巻きムーブメントCal. FP1185の誕生と特徴
フレデリック・ピゲの数あるムーブメントの中でも、特に有名なのがCal. FP1185です。1987年に発表されたこのムーブメントは、当時世界最薄の自動巻きクロノグラフムーブメントとして大きな注目を集めました。
FP1185は厚さがわずか5.5mmしかなく、この薄さを実現しながらも高精度で信頼性の高いクロノグラフ機能を備えています。
Cal. 1185を搭載した代表的なモデル
こんな感じで、Cal. 1185はその高い技術と薄型設計が評価され、多くの高級時計ブランドで採用されています。
ここではCal.1185を搭載した代表的な4つのモデルを紹介します。
カルティエ パシャ 38mm クロノグラフ
現行品でも存在感がありますし、超ロングヒットを続けているのがパシャです。
カルティエのサントスやタンクに比べて、よりスポーティーなデザインが特徴のパシャシリーズですが、このモデルにはCal. FP1185が搭載されたモデルが存在します。
当時で100万円超えの高級モデルに分類されていました。
実際にムーブメントもピゲのCal.1185をチューニングしているCal.205が搭載されていますし、文字盤はギョーシェ装飾が施されており、高級モデルにふさわしい作りになっています。
ムーブメントの造形美も確認できるように、裏蓋がスケルトンになっています。
ブランパン ヴィルレ 自動巻クロノグラフ
スウォッチグループの傘下となった後、ブランパンはピゲのCal.1185を使用したクロノグラフモデルをリリースしました。
ムーブメントのNoはそのまま1185です。
上品なシリーズのヴィルレですが、クロノグラフであっても、薄型ケースに仕上がっており、フォーマルなシーンにも合う時計です。
このクロノグラフだけど、フォーマルってのがそれまにはなかったんですね。
オーデマ・ピゲ ロイヤルオーク クロノグラフ
オーデマピゲではCal.2385として搭載されています。
前回の動画で、3針の方はジャガールクルトのCal.920をベースに作ってますってのを解説しましたが、クロノグラフではフレデリックピゲを採用しています。
やはりジャガーでも、クロノグラフの薄型というのはかなり難しかったんだと思いますね。
1998年から採用されているのですが、その後も長らく搭載されており3代目までのRef.26320STまでこのムーブメントが使われました。
ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ クロノグラフ
ヴァシュロンコンスタンタンではCal.1137として搭載されています。
こちらも1999年から2016年までと2代に渡って搭載されていました。
こんな感じで、雲上ブランドのうちの2社が採用していたのを見てみると、やはりそれだけフレデリックピゲのムーブメントが高品質であったのが分かりますよね。
Cal. FP1185が時計業界に与えた影響
フレデリック・ピゲのCal. FP1185は、単に薄型設計を実現したムーブメントにとどまらず、高級時計のクロノグラフムーブメントとしての新しい基準を打ち立てました。
このムーブメントがもたらした「薄型でありながら高精度」「耐久性と信頼性の両立」は、他のムーブメントメーカーにも大きな影響を与え、クロノグラフの新たなスタンダードとして認識されています。
また、Cal.1185を採用した多くの時計ブランドは、このムーブメントを搭載することでブランド価値を高め、クロノグラフモデルにおいてもドレスウォッチとしてのエレガンスを提供することができるようになりました。
これにより、Cal.1185は多くの時計愛好者から評価され、コレクターズアイテムとしての地位も確立しています。
要するに、バルジューのクロノグラフみたいにそのムーブメントだけで、結構な価値をもたらすくらいの力があるってことですね。
今回もムーブメントというちょっととっつきにくいジャンルの話をしてきましたが、腕時計は外装が半分、ムーブメントが半分くらいの魅力があるジャンルだと思います。
ここまでご覧頂けている方は、少しだけムーブメントについての知識を深めていただけたと思います。
少しだけ時計についての知識に役立てたのであれば幸いです。