ブライトリング クロノマット


ブライトリングは1884年に設立されたスイスの時計メーカーです。

クロノグラフ(ストップウォッチ機能)の開発・進化に大きな役割を果たし、高性能パイロットウォッチの代名詞とも言われるブライトリング。

今回はそんなブライトリングの「クロノマット」に注目してみたいと思います。


ブライトリング クロノマットのはじまり

初代クロノマット


「クロノマット」とは、

クロノグラフ(Chronograph)
マセマティクス(Mathematics/数学)

を組み合わせて付けられた名前です。

その名の通り、「回転計算尺付きのクロノグラフ」です。

1942年の発表に先立った1941年、ブライトリングはスイス政府から初代クロノマットの特許を取得しました。

実は当時、回転計算尺の特許はたった数週間の差でMIMO(ドイツの時計メーカーで現在はジラール・ペルゴとして知られている)が取得していました。

初代クロノマット


それにも関わらずクロノマットの特許が認定されたのは、

・ダイアルの内側と外側に2つの計算尺を配置し、外側の計算尺は反時計回りに数字を読むこと
・クロノグラフも搭載していること

など、MIMOの特許とは決定的に異なる点があったからです。

初代クロノマットのダイアルには、この特許番号「217 012」が刻まれました。

ムーブメントは手巻き17石のヴィーナス175(venus 175)ムーブメント、ケースはステンレスバージョンと18金ローズゴールドバージョンがありました。

この初代クロノマットから派生したのが、1952年に発表された「ナビタイマー」です。

ナビタイマーの詳細はこちらをクリック!!

新生クロノマットの誕生


時は過ぎて1970年代、時計業界は「クオーツショック」に襲われます。

機械式時計よりもはるかに安く正確なクオーツ時計に需要が殺到し、機械式時計は衰退の一途をたどりました。

ブライトリングも例外ではなく、ついに1978年、全ての生産が中断されてしまいます。

その苦境を救ったのはアーネスト・シュナイダーという人物でした。



パイロットでもあり電子工学のエンジニアでもありクオーツ時計メーカーの経営者でもあったシュナイダーは、1979年、ブライトリング3代目ウィリー・ブライトリングから経営を受け継ぎ、全財産を投げ打ってブライトリング再建に取り掛かりました。

そして1982年、イタリア空軍アクロバット飛行チーム「フレッチェ・トリコローリ」が初の公式時計を公募していることを知ったシュナイダーは、パイロットが求めるパイロットのための全く新しいクロノグラフ開発に着手します。

パイロットたちにどのような機能を望んでいるのか細かく聞き取り調査を行い、それらをどうしたら形にできるのかデザインに試行錯誤を重ね、100本にものぼる試作品を作って実際に飛行訓練で着用してもらい、改良を重ねていきました。

その努力が実り1983年、このクロノグラフはフレッチェ・トリコローリの公式時計に採用されました。

パイロットの意見に徹底的に耳を傾けたこのクロノグラフには、いくつもの特徴があります。


新生クロノマット


まずは、ライダータブ。

パイロットが手袋をはめたままでもベゼルを掴みやすいように、そして、風防をダメージから守るために、ベゼルの0、15、30、45分方向にライダータブが付けられました。

このライダータブはネジで着脱することができ、15分と45分のタブの位置を付け替えればカウントダウンベゼルとして使うこともできます。

竜頭とプッシャーもパイロットが手袋をはめたままでも操作しやすいよう、縦筋の入った「タマネギ型」に改良されました。

速度を測るタキメーターだけでなく、時間をより正確に計算するデシマルメーターも搭載。

時計が袖口に引っかからないよう、ブレスレットの取り付け部分にカーブを持たせて、腕にピッタリ装着できるように工夫を凝らしました。


新生クロノマット



防水は100メーター、加速度は20Gまで耐えられます。

ムーブメントには17石の自動巻きクロノグラフムーブメント・バルジュー7750を採用。

ダイアルには1980年代から使われるようになったブライトリングのウィングロゴが描かれました。

このウィングロゴは初期のもので、翼の中央にはイカリのマークの代わりにブライトリングの「B」が、その下には海を表す波線が描かれていました。

ケースバックにはフレッチェ・トリコローリが使用していたアエルマッキMB-339A戦闘機のモチーフが彫り込まれ、その下にはブライトリングの旧ロゴがあしらわれました。


新生クロノマット ケースバック



このクロノグラフは翌1984年、ブライトリング100周年を記念して一般向けに販売開始され、「クロノマット」と名付けられました。

この名前には、初代クロノマットと違う意味が込められています。

クロノグラフ(Chronograph)
オートマチック(Automatic/自動巻き)

まさに、自動巻きクロノグラフ復活を象徴した名前だったのです。

こうして、初代「クロノマット」とはまったく違う新生「クロノマット」が誕生しました。

このクロノマットの誕生は話題となり、クオーツブームに沸く時計市場に逆風を巻き起こしたのでした。


クロノマットの変遷



1984年の新生クロノマット誕生以降、クロノマットはマイナーチェンジを繰り返しながら、ブライトリングを代表する時計へと進化していきます。

ケース材質・ダイアル・ブレスレットの違いなどすべて含めると1000以上のバリエーションがありますが、その中から主なものをいくつかみて見たいと思います。

1985年 クロノマット・ムーンフェイズ


クロノマット ムーンフェイズ


新生クロノマット発売から1年後に発表されたのがムーンフェイズ・バージョン。

こちらもムーブメントはバルジュー7750を採用し、6時位置には12時間積算計の代わりに29日周期のムーンフェイズが配置されました。

このクロノマット・ムーンフェイズは製造数が極めて少なく、とても貴重なモデルになっています。


1989年 クロノマット・ヨッティング


クロノマット ヨッティング


それまでクオーツが主流だったヨット競技用の時計に、新たに機械式クロノグラフを投入しました。

ムーブメントはバルジュー7750の改造版で、12時位置の30分積算計の代わりに10分間カウントダウンタイマーを配置。

クオーツではなく機械式を待ちわびていたヨット愛好家の間で人気となったモデルです。


1994年 10周年記念モデル


クロノマット 10周年記念バージョン


ウィングロゴには18金イエローゴールドが使用され、高級感のあるモデルです。

ケースバックには1984年モデルと同じく、アエルマッキMB-339A戦闘機のモチーフが彫り込まれました。


1997年 クロノマット・GT/ヴィテス


クロノマットはアワーインデックスの種類によって2つのカテゴリーに分けられました。

アワーインデックスがバーインデックスのものは「クロノマット・GT」。

クロノマット GT


3つのサブダイアルの周りに盛り上がった縁取りが施されているのが特徴です。

この特徴「Grand Totaliser(フランス語で『大きなサブダイアル』の意味)」を略して「GT」と呼ばれました。



それに対し、アワーインデックスがアラビア数字のものは「クロノマット・ヴィテス」。

クロノマット ヴィテス


斜体で表記されたアラビア数字には、発光塗料トリチウムが塗布されています。

「ヴィテス(Vitesse)」とはフランス語で「スピード」を意味し、ブライトリングが1920年代に手掛けたカーレース用ストップウォッチの名前でもあります。

アワーインデックスを大きな斜体で表記することにより、ダイナミックなスピード感を演出しました。


GT・ヴィテスに共通するマイナーチェンジとしては、クロノグラフ針の先端がアロー型になり発光処理がされたこと、サブダイアルのアラビア数字が斜体になったことが挙げられます。


2000年 クロノマット2000


クロノマット2000


「GT」「ヴィテス」という呼び分けはなくなり、クロノマット2000のアワーインデックスにはバーインデックスが採用されました。

一番の特徴は、ムーブメントのクロノメーター認定です。

ブライトリングはすべてのムーブメントにクロノメーター認定をもらうことに成功、クロノマット2000のロゴ部分には「クロノマット」ではなく「クロノメーター」と表記されました。

ベゼルに5分間隔で掘られているマーカーはより太くなり、ライダータブの数字フォントもより読みやすいものに変わりました。

サブダイアルの周囲は太く平らな縁取りに変わり、インデックスはその縁取り上に螺旋状に配置されました。

2002年には、アワーインデックスがアラビア数字のものも発表されました。


新生クロノマット誕生からここまでが、ケースサイズ39mmでした。


2004年 クロノマット・エボリューション


クロノマット エボリューション

エボリューション(Evolution)とは「進化」という意味です。

その意味の通り、1984年の新生クロノマットから20年が経ち、大きく変化を遂げたモデルとなりました。

ケースサイズ43.7mm、厚さ17.1mm、ラグ幅22mmと、それまで伝統的に39mmだったケースサイズより断然大きくなり、重量感も増しました。

真っ直ぐなケースにも丸みを持たせるなどデザインも一新され、ねじ込み式プッシャーを採用することにより防水性能も300メートルにアップしています。


2009年 クロノマット・B01


2009年はブライトリングにとって重要な年となりました。

5000万米ドル(約54億円)を費やして開発したブライトリング自社製クロノグラフムーブメント・B01がついに完成したのです。
ブライトリング B01ムーブメント

47石、70時間パワーリザーブ、毎時2万8800振動のB01ムーブメントは、クロノメーター認定も取得しました。

記念すべきこのB01ムーブメント搭載モデル第1号が、クロノマット・B01です。

サブダイアルの配置は従来の6、9、12時方向から、3、6、9時方向に変更。

そのため、日付表示が4時と5時の間に配置されました。

ベゼルはより太くなりアラビア数字が5分刻みで螺旋状に彫り込まれ、ライダータブの数字表記がなくなり突起も抑えられました。

クロノマット B01


ケースサイズは43.5mm、厚さは17mmで500メートル防水付きです。

アワーマーカーはバーインデックスとローマ数字から選ぶことができました。


2014年 クロノマット・エアボーン

クロノマット エアボーン



新生クロノマット30周年を記念して発表されたクロノマット・エアボーン。

B01ムーブメント搭載ですが、30年前の原点に回帰したデザインとなっています。

ライダータブの突起・数字表記が復活し、ベゼルに彫り込まれた数字がなくなり、代わりに黒色のゴム製インレーが施されたバーインデックスが配置されました。

ダイアルのアワーマーカーにはパティナ(経年変色)を感じさせるクリーム色の発光塗料が塗られています。

そしてケースバックには「30周年記念特別エディション」というフランス語表記とともに、あの「フレッチェ・トリコローリ」のアエルマッキMB-339A戦闘機が浮き彫りにされました。

ケースサイズは41mmと44mm、ダイアルはブラックとシルバーの2色がありました。


2020年 クロノマット・B01・42

クロノマット・B01・42



そして最新モデルがケースサイズ42mmのクロノマットB01です。

このモデルも、1984年にシュナイダーが作った新生クロノマットを意識して作られました。

ルーローブレスレットが採用されているのが大きな特徴で、艶消しされたコマと艶出しされたリンクが滑らかに繋がり、ブレスレットとケースが一体化しているように見えます。

もう1つの大きな特徴は日付表示。

4時30分方向にあった日付表示がなくなり、6時方向にある12時間積算計の中に控えめに納められました。

竜頭はつかみやすいオニオン型。


ダイアルに描かれているブライトリングのロゴは、シンプルなBロゴです。

ブライトリングはジョージ・カーンCEOが就任した2017年ごろから、ウィングロゴに代わりこのBロゴを使用しています。

1984モデルのケースバックにもこのBロゴが彫り込まれており、最高のトリビュートとなっています。