スミス/CWC/ハミルトン W10 イギリス国防省ミリタリーウォッチの歴史

こんにちは。

ヴィンテージウォッチライフの妹尾です。

本日の動画では、スミス/CWC/ハミルトン W10 イギリス国防省ミリタリーウォッチの歴史という内容で解説して参ります。

 

W10というモデルは、実際にイギリス国防省が時計ブランドに依頼して納品されている時計ですので、ミリタリースタイルではなく本物のミリタリーウォッチです。

これらの時計の特徴は、生産数が多かったことで現在では比較的に安価に手にすることが出来るところです。

 

しかし、製造されているのは古いものだと1970年とすでに55年の歳月が経っています。

よって、数が多く作られているとはいえ、5年前と比較すれば市場に出てくる球数が減っているのも事実です。

ではそんなW10の時計には、どんな魅力があるのかを一緒に見ていきましょう👍

 

W10とはなんなのか?

「W10」というのは、イギリス国防省(Ministry of Defence, MoD)が依頼した軍用時計に付けられる識別コードの一つです。

特に陸軍(Army)の使用に供された時計を示しています。

ただし、陸軍に納品するものを航空部隊に回すなどの例外もあるのですが、基本的には陸軍に納品されているものだと考えて問題ございます。

このコードは、主に1960年代から1980年代にかけて製造された軍用時計に見られます。

ちなみに空軍用は「6BB」で海軍用は「0552」となります。

これはイギリス国防省の識別コードであり、アメリカや日本でも同じではありません。

イギリスだけの識別コードですね。

国防部の中でも一番多い陸軍に向けて作られているので、製造数は空軍、海軍と比較しても非常に多いんですね。

識別コードがW10に統一されていますが、その基準を満たしていれば同一ブランドからだけの納品というわけではありません。

その年代その年代で、性能と価格を天秤にかけた時に最もコスパが良いブランドが選ばれてきました。

ではここからは、それらW10のそれぞれのブランドの歴史を一緒に見ていきましょう。

 

初代スミス『smiths』のW10

そういった特徴を持つW10ですが、最初にイギリス国防省に納品されたのは、1966年であり、サプライヤーはスミスというブランドです。

腕時計といえば、スイスの時計ブランドが最も有名でその他にはドイツや日本が入ってきますが、スミスは珍しいイギリス製のブランドです。

そのため、製造国を表す6時位置の表記は、MADE IN ENGLANDと記載されていますね。

それまでにメインの製造は、車やバイクの計器を作っているブランドでした。

生産は1967年から1970 年までの4年間にわたって行われることとなりました。 

時計自体は 35mmと現代の感覚からすれば小型ですが、ラグからラグまでの長さは47mmと大きめなので、手首に上手く馴染んでくれます。

ケースはステンレススチール製で、ミリタリーウォッチなので、固定バネ棒が付いており、バネ棒の破損により現場で時計が紛失するのを防ぎます。 

なぜミリタリーウォッチは、固定バネ棒なのかを簡単に解説しますね。

動画をご覧になってる方も、一度は経験があると思われますが重い荷物を持った時など、力が入る動作の時には通常と比較して、筋肉が膨らみ手首周りも少しだけ太くなります。

実際の軍人となれば、重いものを背負うことは頻繁にありますし、ライフルの衝撃に耐える時にも力が必要です。

そんな時に一般的なバネ棒タイプであれば、バネ棒の部分からベルトが外れてしまうために、特に陸軍の時計は固定棒で作られています。

話を戻しまして、スミスが納品したW10の文字盤は、国防省が定めた仕様に従っており、英国軍が発注した以前の時計と非常によく似ています。

ちなみに以前に発注した時計については、こちらの動画で詳しく解説しておりますの気になる方はこちらの動画もご覧ください↓

その特徴を簡単に解説すると、大きなアラビア数字、ソード針、レールウェイの分目盛りなど、今ではおなじみのフィールドウォッチのレイアウトに従ったデザインです。

ダーティダースの時計にも、スミスW10にも共通していることは、このレイアウトは非常に読みやすく、何よりも視認性を第一優先にしていることです。 

次にムーブメントを見てみましょう。

W10を動かすのは、スミスが自社で製造した手巻きムーブメントCal.60466Eです。

これが凄いところなのですが、こういったマイナーブランドが自社でムーブメントを作っており、それを実際に搭載しているわけですから凄いですよね。

実際に納品する際にも、海軍水路測量部のクロノメーター部門の研究所で厳格なテストが行​​われましたし、陸上テストでは、熱帯地方と北極でも実施されました。

やはり陸軍が使うものなので、ただ時計を作れるだけではダメなんでしょうね。

ただし、ムーブメントを1から作っている分ではないようで、このキャリバーは1940年代後半のマーク XIに搭載されたジャガー・ルクルト社製のキャリバーの構造に大きく影響を受けて作られています。

またその時のケースの仕組みも同様に、キャリバーを磁化から保護するためのダストカバーまでも入ってるので、かなりしっかりした作りになっているのが特徴です。

軍から出された要望に従い、ムーブメントはハック機能が搭載されています。

ではここからは、W10の文字盤に共通する特徴を解説して参ります。

 

W10の文字盤に共通する文字盤のマーク

暗闇でも読みやすいように、スミスW10の針と分目盛りには、トリチウム塗料が塗られています。

一般的な時計では、6時位置に製造国を表すSWISSの両隣にTのマークが入ってますが、イギリス国防省の時計には12時位置のところにあるブランド名の下に、丸Tでそれを表現するようにしています。

一般的に我々が見るのが、時間が経つにつれて焼けたクリーム色のトリチウムですが、元々の色は白なんですね。

この白バージョンは後のパートでご紹介しますね。

6 時の位置に上方向の矢印のようなものがありますが、これはこの時計が英国軍の所有物であることを示すためのマークである『ブロードアロー』です。

要するに、これらのミリタリーウォッチというのは、一度イギリス国防省が全てを購入して、それぞれ個人に渡していくので個人所有ではないということなんですね。

これらはすべて、ドーム型のプラスチック風防で保護されており、使用中に破損したり傷がついたりしても簡単に交換または研磨できるように、プラスチックが採用されています。 

そんな素晴らしい作りのスミス社製のW10なのですが、生産期間はわずか4年とかなり短かったです。

1970 年代に入ると、英国政府はコスト削減に努め、W10 時計の契約はハミルトンに引き継がれ、ハミルトンはトノー型ケースの W10 の独自バージョンを生産し始めました。 

ちなみに、スミスは今でも現存する会社であり腕時計を作り続けています。

こうして、英国製軍用時計の最後の生産は終了したのですが、スミス社には W10 時計の余剰在庫が残っており、これは民間市場に提供されました。

これらの民間モデルは、国防省の装備を示す文字盤の矢印記号が削除されている点を除けば、軍用バージョンと同一です。

そしてこれらの時計は、スキンダイバーとして一般向けに販売されました。

ただし、実際には民生品はほとんど見かけることがありませんので、私の予想なのですが、そのほとんどは軍に流れて、余剰在庫はほんの少しだったのではないでしょうか。

ここまでが、W10というかイギリス国防省の時計に共通している特徴であり、次期型のハミルトンを見てみましょう。

 

 

2代目ハミルトン『HAMILTON』のW10 

1970年代に入ると、イギリス経済の不振により軍はコスト削減を求められるようになりました。

よって、スミス社のような伝統的な手の込んだ時計作りではなく、もっと簡単な作りの時計が求められるようになります。

その結果、新会社のハミルトン社がスミス社の後継となるW10の生産を開始し、1973年から1976年にかけて支給されることとなりました。

この腕時計は手巻き式で、ハミルトン社製Cal.649ムーブメントを搭載されています。

これはETA社製Cal.2750ムーブメントがベースにあり、これをハミルトンがチューニングしたもので、こちらも軍の規定に従い、新たにインカブロックやハック機能が追加されました。

それまでのイギリス国防省の腕時計と大きく違うのは、トノー型のモノコック構造で作られていることです。

ステンレススチールをくり抜いて作ったワンピースケースであり、ケース本体と裏蓋は別ではなく繋ぎ目がない1つのパーツとなっています。

そして、このことが耐水性を大きく向上させているのです。

このように、裏蓋との一体型ケースや汎用性のあるムーブメントを採用することで、大きなコストダウンにつながった時計です。

ハミルトンのW10は、海軍と空軍にも少数納品された履歴が残っています。

1973〜76年の3年間の間に、およそ3万台が製造されたと言われておりますが、1974年には、空軍用が3500本程度、1975年には空軍用が700本程度と海軍用が400本程度。

全体から見た時の空軍用はかなり少なく、海軍用はもはや激レアモデル並みに少ないと言えるでしょう。

陸軍モデルも、3万台とはいえコレクターの手に渡っていった結果、良好な個体を見つけ出すのは、難しいのが現状ですね。

ケース径は36mmとスミスのW10から1mmサイズアップしていますが、このトノー型のケースも非常にカッコよく腕への馴染みが良いです。

軍用の時計なので、作りはしっかりしており私たちが普段使いする分には、有り余る性能を装備しています。

ミリタリーウォッチをこれから楽しみたい方には、入門時計としておすすめ出来る一本ですね。

 

では次に、ハミルトンの製造を引き継ぐ形でバトンタッチしたCWCのW10を見てみましょう。

 

 

3代目 CWCのW10 

1970年代後半には、時計業界全体を巻き込んだクォーツショックにより、ハミルトン自体も窮地に陥り、軍用時計供給事業から撤退することになります。

しかし、ハミルトンの英国人従業員で契約担当ディレクターのレイ・メラー氏は、国防省からこれらの時計に対する需要が依然として大きいことを認識していました。

そこで彼は、ハミルトンが残した事業を引き継ぐことを決意し、 1976年からCWCがW10を担当することになります。

よって、CWCのW10は、ハミルトンと同じ部品やスイスのサプライヤーを使用して、作られておりハミルトンW10と基本的には同じスペックになっているのです。

そんなCWC社ですが、1976年から1980年までイギリス国防省にW10を納品し、こちらも空軍、海軍用を合わせて3万台程度と言われています。

ハミルトンとの大きな違いは、ムーブメントでハミルトンの方はキャリバーナンバーの649が入っているのに対して、CWCの方はパーツの1つにCWCと刻印が入っているだけです。

そんなCWCなのですが、現在でも存続するイギリスの時計製造メーカーです。

詳細な歴史については、こちらで詳しく解説しておりますので気になる方はこちらの動画もご覧ください↓


 

 

では最後に、これらW10の裏蓋の意味を解説をして参ります。

 

W10の裏蓋から何が読み取れるのか?

では一番情報量が多く、分かりやすいスミスのW10の裏蓋を一緒に見ていきましょう。

まず、この時計が陸軍に支給されたことを示す「W10」があり、その次に NATO ストック番号が続きます。

イギリス空軍に支給された時計には「6BB」

イギリス海軍に支給された時計には「0552」

が刻印されています。

6645-99-961-4045: これはNATOストックナンバー(NSN: NATO Stock Number)です。

この番号は国際的な軍需品識別システムで使用され、時計のカテゴリーや特定の識別情報を含んでいます。

要するに、この長いコードが時計であることを表しています。

これらを細部に分解して解説すると、

6645: 時計および精密計測器に関連するカテゴリー。

99: イギリスを示す国コード。

961-4045: 個別のアイテム番号で、特定の時計モデルを識別します。

1585/67: これは製造年を示しており、1967年に製造されたことを表し、1585番目に製造された時計であるという意味になります。

 

これらの情報により、この時計がイギリス陸軍で正式に使用されていた装備品であることが分かるのです。