動画でサントスの歴史をご覧になる方はこちらから↓
この記事では男性目線での『サントス』の歴史について解説をして参ります。
カルティエは何十年もの間、特に王族や富裕層などの高級品コレクターの間で、ジュエリーブランドとしてよく知られてきました。
創業当初から時計を作っていたのですが、世間的にはあまり知られておらずその理由は、タンクやサントス、トーチュ、トノーなどが常にゴールドやプラチナという高級素材で作られていた為、誰もが手の届くものではなかったからでした。
そういった歴史の中で、カルティエの腕時計が本格的に一般に知られるようになったのは、1970年代後半に入ってからと言えるでしょう。
この記事を最後までご覧頂くことで、サントスの進化の歴史が分かると共に大量にあるサントスの派生モデルを、区別出来る様になると思いますのでどうか最後までお付き合いください。
1904年 サントス・デュモンの誕生
当時の3代目であるルイ・カルティエが社交の場で友人となったアルベルト・サントス=デュモンという人物からある依頼を受けることとなります。
その依頼はどんなものだったかと言いますと「飛行機の走行中、操縦桿から手を放さずに時間を確認できる時計が欲しい」という依頼でした。
当時は、懐中時計がメインであり腕に付ける時計というのはありませんでした。
それ以前にも、腕時計らしきものはあったのですが女性用で懐中時計にベルトをつけただけで、すぐに外れてしまったりと場当たり的なものだったのです。
そこでカルティエが、その依頼に答える形で作ったのが1904年の『サントス・デュモン』という時計だったのです。
もっと詳細に誕生の話を知りたい方はこちらの動画をご覧ください↓
1970年代後半カルティエの新しい時計の必要性
1970年代当時、時代は富裕層だけなく、中間層が誕生し一部の富裕層だけでなく大多数の中間層を顧客にし、それらの顧客を取り込むことがビジネスを成功させる秘訣でした。
当時の時計界は、デカ厚ウォッチの人気のブームに火がついた初期で例えば、オーデマ ピゲのロイヤルオークや、パテック フィリップのノーチラスなどがそれにあたります。
これらの時計の共通点はサイズが大きいことと高級ブランドでありながらも、ステンレスで作られており、新しく台頭してきた若い人たちの好みや、ライフスタイルを取り入れたものでした。
そして、これらの時計はのちに『ラグジュアリースポーツウォッチ』と呼ばれるようになったのです。
しかし、当時のカルティエ社にはそれを補うことが出来るモデルが存在せず、何かのモデルを新しく刷新させる必要があったのです。
そんな中1978年、当時カルティエのマーケティング・マネージャーに任命されたアラン=ドミニク・ペラン氏は、伝説的な「サントス・デュモン」をベースに、手頃な価格のスポーツウォッチを作ることを思いつきます。
1975年から1998年までカルティエのCEOを務めたアラン=ドミニク・ペランは、1978年にスティールにゴールドのアクセントをあしらった手頃な価格のサントスを発表することを思い立った。(画像: theconnectedtable.com)
素材の融合で生まれ変わったカルティエ サントス
ぺランが考えたのは、ロイヤルオークやノーチラスの成功を元に、カルティエがこれまで時計に使用したことのない素材である、ステンレススチールを使った腕時計を作ることでした。
しかし、この新しい時計にラグジュアリー感を与えるため、ペランはステンレスにゴールドのアクセントを加えたサントスを発表することにしました。
当時、ステンレスとゴールドの組み合わせは一般的ではなかったので、挑戦的な試みであったし、大胆な組み合わせだったと言えるでしょう。
このようにカルティエ社は、他社をお手本にしつつも自社の持つ強みを持って、この新しいトレンドの先陣を切った企業のひとつでした。
あまり知られてない事実ですが、サントスはツートンカラーの腕時計として誕生したのです。
デザインを見てみると、ベゼルのフレームとブレスレットのビスはゴールド製で、2つの異なる色の金属ですが上手く馴染みスポーティでありながらも、高級感が感じられます。
サントスほどツートーンが似合う時計は、他社でもなかなか見かけることはないでしょう。
1978年、アラン=ドミニク・ペランの指揮のもと、カルティエが発表したツートンカラーのサントス(© George Cramer)
このような背景があり、新しくなったサントスは1978年10月20日に発表されました。
そして、このステンレスとゴールドの組み合わせは結果的に多くの顧客に求められるようになり、大成功を納めるのでした。
またその直後に、オールステンレス製モデルが発表され、こちらも大ヒットしサントスの人気は大幅に上昇したのでした。
1987年 サントス・ガルべの誕生
一般的に言われているのは、1987年に新しく誕生したのがサントス・ガルべという事実です。
それは事実なのですが、実はこれは1978年に誕生したサントスの延長線上にあるということなんですね。
実は1978年に誕生したサントスは、名前を変更して1987年にサントス・ガルべとして再出発となりました。
デザインはほぼ同じなのですが、それまでのサントスからは改良され、特にケースはオリジナルのサントスよりも曲線的で滑らかになり、手首にフィットするようになりました。
このケースが滑らかにカーブを描いていることで、『ガルべ』と名付けられておりこのガルべとはフランス語で『曲線』を意味します。
左がカルティエ サントス ガルベ、右が1978年発表のツートンカラーのサントス (© George Cramer)
そんな新しく刷新されたサントス・ガルべなのですがクォーツと自動巻Cal.077 (ETA 2671)を搭載した2つのモデルが存在しました。
これは当時の時計業界の時代背景が大きく影響しています。
1970年初めに日本のSEIKOが開発したクオーツムーブメントによって、それまでの伝統的な作り方であるそれぞれのパーツの組み合わせで、時計を動かす手巻きや自動巻ムーブメントは時代遅れなものとなってしまいました。
しかし、1980年代後半になってくると、手巻きや自動巻などの職人が作り上げたものや、男性特有のメカニックが好きであるという嗜好から、再度機械式ムーブメントに脚光が浴び始めたのです。
その結果、クオーツ一辺倒ではそもそものブランドとしての価値が低下してしまうと考えたスイスの時計各社、もちろんそこにカルティエも含まれますが、その頃から段々と自動巻や手巻きを再度復活させていくことになったのです。
そして、自動巻キャリバーを搭載しているサントスガルべは男性の嗜好を組み入れるために、LMサイズが採用されているのです。
現代では40mm前後がデフォルトのサイズになりますが、当時としてはLMサイズであっても30mm前後が主流でありサントスガルべも29mmのケース径で作られています。
今の私たちが見ても、現代にはないこのサイズ感はヴィンテージの魅力とも言えますよね👍
また、こちらのガルべには特殊な色をした文字盤も限定で生産されていました。
左側がワインレッドで、右側がグレーの文字盤になります。
ワインレッドの文字盤の方のリューズには、ルビーが採用されており特別感がありますね。
しかし残念ながら、生産数が極めて少なく市場に出てくるとはほとんどありません。
2000年代初頭のサントス 『サントス100』『サントスガルべXL』
2002年にアジア限定盤で、メンズモデルでグレー文字盤が2000本、レディースモデルでダブルCのロゴにアイスブルーの文字盤が2000本製造されました。
男性が好むグレーの文字盤なのですが、シックで落ち着いた感じがありつつもスポーティでカジュアルな仕上がりになっていますので、他のブランドでは実現できない美しさを放っていますね。
その次に発表されたのが、2004年のサントス100になります。
2000年代初頭になると、大きい時計のブームはさらに大きさを求められるようになっており、パネライの『ルミノール』やウブロの時計のような40mm以上あり厚さもある無骨な時計が人気になっていました。
そこで、カルティエ社がそのブームに合わせて誕生させたのが初代サントス・デュモンからちょうど100周年を記念して作られたサントス100だったのです。
サントス100は2つのサイズで展開してあり、MMサイズの33mmとLMサイズの38mmがありました。
MMサイズはユニセックスで、レディースよりのデザインの物も準備されていましたが、ステンレスと18Kローズ、イエローゴールドなど男性も選べる時計がありました。
今回のモデルでカルティエ社が強調したかったのは、LMサイズでありこちらがデカ厚時計の大本命になります。
ケースサイズは、他社の40mmオーバーに届いてませんがケースの厚さがあることによって、カルティエ社が本来持つ洗練されたデザインのギリギリのラインで、絶妙に大きく見せてくれています。
搭載ムーブメントはカルティエCal.49 (ETA 2892-A2)の自動巻になります。
下記の動画で詳しく解説していますので、ここでは軽く触れる程度にしますが、サントス100にはクロノグラフ機能を搭載させたXLサイズも存在し、こちらはケース径は41.5mmになります。
話は戻りまして、サントス100は巨大な時計なのですが、とにかく時計本来の視認性を追求した腕時計と表現できます。
と言いますのも、ここまで大きい時計であればデイト表示などの機能を搭載させても良いのですが、それはなくスモセコも搭載出来る空間はあるのにそれもありません。
その代わり、インデックスも針も巨大でセンターセコンドが採用されています。
これらから、カルティエ社は意図的に、視認性を追求したシンプルな時計をサントス100に与えているのが分かります。
サントス100は、誕生から20年経った今でも大人気のモデルになります。
やはり男性であれば、質実剛健に憧れるものですがサントス100というのはドレッシーでありながらも、男らしさを実現してくれているモデルだからだと思いますね。
その次に発表されたのが2005年のサントス・ガルベXLです。
サントス100と比較すると、小さく感じてしまいますがサントスガルべのLMが29mmだったので、それと比較すると3mmも大きくなっています。
時計の基準となるサイズが、全体的に大きくなっていた時代であり、サントスガルべもより大きな時計を求める強い要望の結果として生み出されました。
XLは自動巻きで、ETA社製Cal.049が搭載されています。
LMは日付窓が3時位置にありましたが、XLは4〜5時の間に配置されています。
CPCPでサントス・デュモンを復活
上記までご紹介したモデルは、基本的にはステンレスを基調とするラグジュアリースポーツウォッチでした。
しかし、カルティエ社はこれらとは別のラインで、1つの上のランクに当たる CPCPというコレクションを生み出します。
CPCPとは、
『Collection Privee Cartier Paris』の略であり、プリヴェは英語で『プライベート』の意味を持ち、カルティエの最も歴史的なモデルを復活させたコレクションのことを指します。
様々なモデルが復刻されましたが、その中に1904年に誕生した『サントス・デュモン』も含まれていました。
ケース径は27mmであり、プラチナやイエローゴールドの高級素材でだけ製造され、ムーブメントも手巻きが採用されており、フレデリックピゲ社がカルティエのために製作したCal.21が搭載されています。
CPCPコレクションについては、こちらの動画で詳しく解説しておりますのでお時間のある際にご覧ください↓
CPCPを除いたサントスのシリーズは、2017年まで生産されていましたがここで一度サントスシリーズは終了し、次期型へ受け継がれることになります。
サントスの2018年コレクション
そして、1978年に誕生したサントスの発表からちょうど40年後の2018年に、カルティエはSIHHで新しい現行のサントス ドゥ カルティエを発表しました。
2018年のコレクションには、
MMサイズ(35.1mm x 41.9mm)
LMサイズ(39.8mm x 47.5mm)
の2種類が展開され、ケースはオールステンレス、18Kのイエロー、ピンクゴールド、そして、ステンレスと18Kイエローゴールドのツートーンでした。
2つのサイズのデザインに大きな違いはありませんが、LMサイズには6時位置に日付窓がありますが、MMサイズにはありません。
では、旧モデルのガルべとは何が違うのかを見てみましょう。
ぱっと見では、大きな変化は感じられませんがベゼルの形状が違います。
新しいフランセーズもそうなのですが、カルティエは現在ケースからベルトまでを滑らかに繋げ、ベルトと一体感のあるデザインにしようとしています。
新しいサントスもその先駆けとして、ベゼルはベルトと繋がり旧モデルと比較して造形が、スタイリッシュになっています。
またサイズも、旧モデルではXLで32mmだったのがMMで35mmになっているので、ベースのサイズがさらに拡大されています。
サントス100を進化させてる感じに近いかもしれませんね。
その後、新しいサントスも特別モデルが誕生します。
サントス100の時にラインナップされたモデルと、近いものがありますので割愛させて頂きますが、これらが現行モデルとして存在しているというのは、これまでのカルティエの歴史の中で珍しいと思われます。
特に、スケルトンモデルなどはすぐに公式サイトから消えると思いますので、購入を検討されてる方は、出来るだけ早い方がいいと思いますね。
サントスのメインラインが誕生した翌年の2019年に、サントスからまた新しいクロノグラフが発表されました。
XLサイズで43.3mm x 51.3mmで、厚さは12mmあります。
サントス100のクロノグラフが41mmだったので、そこからさらに2mmも大きくなっています。
サントス100時代のクロノグラフとの大きな違いは、新型には自社製Cal.1904-CH MC自動巻ムーブメントを搭載していることと、クロノグラフのボタンをケースの左側に配置させ、リセットボタンはリューズの内部に統合されている点です。
操作は左にあるボタンを1回押してスタート。
2回目を押したらストップ。
リューズを押したらリセット。
になっています。
これは別動画で解説している、モノプソワールでの技術を応用していると考えらます。
カルティエの基本的な理念の中に、無駄なものは省きスマートなデザインにするというのがあるので、そういったボタンも出来るだけ配置されないようにデザインされています。
クロノグラフとしては、かなり珍しいデザインでありケースに対称的な外観を与えています。
モノプソワールについては、こちらの動画で詳しく解説しておりますので気になる方はご覧ください↓
2019年 サントス・デュモンをラインナップに追加
サントス・クロノグラフとともに、カルティエはSIHH 2019でサントス・デュモンを発表しました。
サイズは2種類あり、SMサイズはケース径 27.5mm(ラグからラグまで38.5mm)、LMサイズはケース径31.4mm(ラグからラグまで43.5mm)、XLサイズはケース径34mm(ラグからラグまで46.6mm)になっています。
デュモンは、ステンレス、ツートーンのコンビ、ピンクゴールドのモデルを展開し、それらにはレザーベルトが取り付けられています。
全体的なデザインは初代サントスをほぼ完璧に復刻しており、細長いローマ数字とガードのない際立ったリューズが特徴的です。
そんなサントス・デュモンなのですが、搭載されているのはムーブメントはLMサイズまでがクォーツ式で、XLサイズが手巻きCal.430になっています。
ここでクオーツが出てきたので、解説させて頂きますがカルティエ社は手巻きや自動巻モデルだけでなく、クオーツも技術が進んでいます。
カルティエ社によれば電池寿命は6年であり、「高自律性」クォーツムーブメントを搭載しているとのことです。
私たちの一般的な感覚からすると、大体2〜3年で交換時期かなぁとイメージしますが、今のカルティエの時計は6年間は電池交換が必要ないんですね。
2020年にはサントス・デュモンの魅力と完璧なスタイルに敬意を表し、3つの特別限定モデルを発表しました。
裏蓋をご覧頂ければ分かる通り、サントス・デュモンが乗っていたとされる飛行機のエングレービングが施されています。
これらの2020年モデルはそれぞれ限定で500個、300個、100個だけ生産され、いずれも機械式手巻きムーブメント、Cal.430MCを搭載していました。
特に珍しいのが、赤いルビーがついてるモデルが100個しか作られなかったモデルで、こちらはケースにプラチナが使用されています。
まとめ
カルティエは2018年にサントスを再登場させ、2019年にはラインナップを拡大することで、このモデルを第2のタンクのポジションに持っていこうとしてるのが伝わってきます。
カルティエといえば『タンク』なので、まだまだそこまでの普遍的な魅力はないかもしれませんが、サントスは一段と深みを増し、他社の定番モデルと戦えるくらいの力をつけて来ていると思います。
サントス100がモダンなデザインを採用し、ETA社製ムーブメントをケース内に搭載したのに対し、2018年に発表されたサントスは自社製ムーブメントを搭載しています。
それは、カルティエが21世紀における正統派ウォッチメゾンとしての決意を改めて示すものであります。
1904年に初めて世に送り出された時計が、約100年経った今でも美しく見えるのは、カルティエの時代を超越したデザインを生み出すことが出来ることを証明しています。
そのカルティエの哲学は現代にも受け継がれており、それを消化進化させていく姿を見れば今後のカルティエのサントスに大きな期待を持てると感じています。