機械式時計・手巻き時計 ~ブライトリングのクロノグラフの歴史は人類の空への憧れの歴史~
男なら一度は空に憧れを抱くものです。
たとえば、大きな鷲が空を悠然と舞う姿を見て、その雄々しさに息をのむことでしょう。
人がその憧れに手を出した、1800年代後半から1940年代は人類史上で最も色々な近代技術が昇華したときです。
その時代に飛行機は生まれました。
当時時計は懐中時計が主で、腕時計は大変な高級品で、多くの人は懐中時計をカスタムして腕時計にしていたのです。
しかし飛行機に乗っている最中という最も時間管理が大切な時に、懐中時計を使うことは非常に不便なものでした。
飛行機の中では腕時計のほうが機能的であったということです。
この年代、飛行機に乗る人のために多くのブランドが機能的な腕時計の開発に躍起になっていました。
IWCが1936年に開発した「パイロット・ウォッチ」などが好例です。そしてブライトリングも同じく航空世界において大きな貢献を果たした時計のひとつなのです。
■ブライトリングの歴史
1884年、レオン・ブライトリングがスイスのジュラ地方、サン・ティミエにスポーツ、科学研究を目的とした産業用クロノグラフをはじめとする、精密計測機器専門の工房を開いたのが、ブライトリングの歴史の始まりです。
1915年レオン・ブライトリングの息子、ガストン・ブライトリングがリューズと独立したプッシュボタンを備えた最初のクロノグラフを発明し、1923年にはこのクロノグラフの改良版が開発しました。
そして1931年、現在のブライトリングの名声を確固たるものにする出来事が起こります。
それは航空機のコクピット専用クロノグラフを作ったことでした。
英国はこのクロノグラフに目をつけ、第二次世界大戦で使用した航空機に、ブライトリング製のクロノグラフを搭載しました。
1934年、ブライトリング3世である、ガストン・ブライトリングの息子、ウィリー・ブライトリングがリセット専用の第2プッシュボタンを備えた時計を開発し、特許を取得しました。
今日私たちが目にする、このスタート・ストップ・リセットを有した時計の始祖となっています。
このウィリー・ブライトリングの時代に、ブライトリングは航空世界の信用の基盤を作り上げます。
それが、第二次世界大戦が終わって間もない1950年の出来事です。
ブライトリングは多くの航空会社にそれぞれのタイプの飛行機に応じたコクピット用のクロノグラフを手掛け、航空界の公式サプライヤーに選ばれたのです。
そして1952年ブライトリングは航空用回転計算尺を有したモデル「ナビタイマー」を発表。
このプロ仕様の腕時計は今なお、航空時計ファンを魅了してやまない時計となっています。
1969年には自動巻きでは実現できないといわれていたクロノグラフを、デュボア・デプラ、ホイヤー・レオニダス(現タグ・ホイヤー)、ハミルトン・ビューレン(現ハミルトン)と共同開発し、世界初の自動巻きクロノグラフの時計を世に送り出しました。
1979年にはブライトリング家で経営されてきた歴史が終わり、アーネスト・シュナイダーがブライトリングの舵を切ることになります。
その5年後の1984年には名モデル「クロノマット」を発表します。
1999年になるとアーネスト・シュナイダーの息子、セオドア・シュナイダーが舵取りの任を引き継ぎ、同年「100%公認クロノメーター」宣言をし、21世紀はブライトリングの大きな転換期となったのです。
その1つに通常のクォーツ時計の10倍以上もの精度を持つ、温度補正機能を搭載した、新ムーブメント「スーパークォーツ」を導入したことも数えられます。
ブライトリングはクロノグラフに特化した歴史を持っています。
そこから気づかれる方も多いかと思いますが、中身は自社製ではなく外部に制作してもらったキャリバーなのです。
クロノグラフのムーブメントはエタ(ETA)社(バルジュー社)、レマニア社によって作られており、最後にその部品をそのメーカーごとに改造するのです。
同じような時計でいえば、オメガのスピードマスターなどもエタ社で作られたキャリバーをモディファイして積んでいるのです。
そういったキャリバーを積んだ時計は、時計好きの人、特にロレックスのような創業以来自社製一本にこだわり続けているブランドが好きな人にはなかなか好まれない傾向があります。
しかしその声も今日では聞こえないはずです。
ブライトリングは2002年に新ムーブメント開発工場、ブライトリング・クロノメトリーを開設し、2009年にはブライトリング社初となる自社開発、製造の自動巻きクロノグラフキャリバーである「01」を発表しました。
その後もコンスタントに自社製のキャリバーを搭載した時計を開発しています。
ブライトリングの新たな歴史を紡いでいるのです。
ところでクロノグラフって何?
ブライトリングを語る上で、切っても切り離せないのがクロノグラフです。
クロノグラフとはラテン語の「クロノ(時)」と「グラフ(計測)」を合わせた造語です。
同じ主ゼンマイの動力源によってストップウォッチを有した時計のことを言います。
1845年にアンリ・フェリオル・ピゲが開発したのがはじめです。
クロノグラフという言葉にすると難しく聞こえるかもしれませんが、要はストップウォッチ機能がついている時計だと考えていただいてほとんど間違いはありません。
多くのものは竜頭の上にスタートとストップ機能を担う第1プッシュボタンとリセット機能を担う第2プッシュボタンがついています。安価な時計でも、今や標準装備となっていることも少なくありません。
ブライトリングの代表モデル
・ナビタイマー
1942年ブライトリングはクロノグラフに計算尺を組み込むという斬新なアイディアを実現させます。
ベゼルを回転させることによって、簡単に掛け算などができるようになっています。
10年後の1952年に航空航法計算に適するようにキロメートル(KM)、海里(NAUT)、法定マイル(SKAT)間の換算ができるようにインデックスを付け加えました。
「ナビゲーション」と「タイマー」という2つの言葉を組み合わせて、「ナビタイマー」というモデルが誕生しました。
ナビタイマーは様々な時間を計測することが出来ます。
例えば降下速度やその平均時間、滞空時間や掛け算、割り算、また応用で通貨の換算などもできるのです。まさにプロのための時計といってよいでしょう。
・エマージェンシー
ブライトリングは2013年にあるモデルを発表します。
それがエマージェンシーです。
エマージェンシーはクォーツ時計でありますが、ただのクォーツ時計ではありません。
2帯域の周波数を発信するビーコンを搭載した世界初のクロノグラフなのです。
国際的捜索救助システムCOSPAS-SARSATは2つの衛星システムを利用して、遭難信号をキャッチし、遭難者の救助に当たっています。エマージェンシーはそのCOSPAS-SARSATに規格に準じ、24時間の間、2帯域の周波数信号を発信する機械を搭載しています。
ケースの右下にある保護キャップのネジを外し、アンテナをいっぱいまで引き出すことによって信号が発信されます。
まず第1の周波数406Hzの信号を衛星に向けて、遭難警報を発信します。
そしてもうひとつの第2の周波数121.5MHzの信号は遭難現場に出動した遭難救助機に向けて、現在位置を知らせる機能がついています。
冒険家にはかかせないアイテムとして、ブライトリングのこのエマージェンシーは活躍します。
ただしこのモデルを一般人はおそらく購入できないでしょう。
なぜならば、航空法第24条に定める航空従事者かつ電波法第40条に定める無線従事者でなければ購入できないためです。
購入後は航空機局無線設備としての登録を行わなければいけないので、まさしくプロ専用の時計なのです。
ブライトリングの時計は男を大空へといざないます。本格志向にあふれた時計は、かつて憧れたパイロットになったような気持ちで身に着けるのが、一番合うでしょう。