インジュニアの歴代モデルを動画でご覧になる方はこちらから↓
ここでは、IWCから誕生した超耐磁腕時計である『インジュニア』について解説させて頂きます。
この文章をご覧になってる方は、もうインジュニアのことが大好きだしそのデザイン性の素晴らしさを理解されていると思われますが、やはり実際の機能が素晴らしいのです。
そして、たまたま出逢われた方は電子機器に囲まれて仕事をしている方もいらっしゃると思いますので、このインジュニアは候補に上がってくると思います。
最強の耐磁時計であるインジュニアは、どのように誕生しどの様に人々から求められるようになっていったのか?
今日は、それらを全てしっかりと解説させて頂きますので、どうか最後までお付き合いくださいませ。
インジュニア誕生の歴史
1955年、それ以前に誕生していたマーク11を民生用に応用する形で誕生したのが『インジュニア』になります。
インジュニアとは、ドイツ語で“Ingenieur”と綴り日本語に直すと『エンジニア』や『技術者』を意味します。
原型であるマーク11は、そもそもイギリス空軍パイロットに向けて作られているために、コックピット内では常に磁場に晒されています。
しかし民間にも、磁場にさらされる仕事は存在し、医師や放射線技師など電磁波の影響が心配される特殊な職に就く方に向けて製造されたのでした。
マーク11の詳細については、こちらの記事で解説しておりますので気になる方はご覧ください↓
それでは初代モデルを見てみましょう。
初代モデルは1955年から1967年まで製造されており、デイト表記なし自動巻ムーブメントCal.853が搭載されていました。
当時の最新型の自動巻を搭載させたことで、値段は他社の一般的な自動巻を搭載した時計よりも約2倍で販売されていましたが、前述した通り医師、技師、研究職に就くホワイトカラーの人々に向けて販売したたことと、それまでにない磁気に強い時計ということで大ヒットを記録したのでした。
そして、初代モデルの耐磁性は80,000A/m(1,000ガウス)ありました。
では次に、どの様に磁気から時計を守っていたのかについて見ていきましょう。
軟鉄ケースの仕組みを大まかに理解しよう
どの様に磁気から時計を守っているかというと、軟鉄製のインナーケースでムーブメントを覆うことでそれを実現しています。
専門的な話になってしまうので、ここは聞き流して頂きたいのですが軟鉄は、鉄の一種ですが、炭素の含有量が少ないため、磁性率が低いのが特徴です。磁性率とは、磁場に置かれたときに磁化される度合いを表す数値で、この磁性率が低いということは、磁場の影響を受けにくいということなんです。
そして、これをステンレスケースの中に入れているという訳なんですね。
これによって、磁場からムーブメントを守りそういった環境であっても時計が狂わないということなんですね。このガウスとか磁気とか、ちょっと意味が分からない部分だと思いますが超簡単にいってしまうと、ガウスの数字が大きいほど磁気に強いということになります。
1000→2000→3000ガウスのような感じですね。
そして今回の1000ガウスを標準として説明すると、これくらいのガウスがあれば例えば、スマートフォンやスピーカーなどの磁気が発生する機器から1cmの距離で1時間ほど腕時計を置いても、磁化の影響を受けにくい水準となります。
軟鉄ケースを採用してるから無敵と言う訳ではなく、磁気に強く磁化しにくい、と理解しておく注意が必要です。
2代目インジュニアの誕生
耐磁性は80,000A/m(1,000ガウス)
耐磁性はそのまま1000ガウスを維持します。
2代目になると、デイト表記が追加されケース径も1mm大きくなり37mmになりました。
大きなデザインの変更はありませんが、インデックス、針に夜光塗料が入れられています。
見逃してはいけないのは、秒針の部分にも夜光塗料が入っていることです。
搭載ムーブメントは、Cal.583からの進化系であるCal.584であり改良を重ねた結果、初代よりも薄型に成功し時計自体も薄くなりました。
3代目インジュニアの誕生
耐磁性は80,000A/m(1,000ガウス)
3代目のインジュニアの特徴は、デザインが大きく変更されていることです。
デザイナーは有名なジェラルドジェンタ氏であり、パテックフィリップのノーチラスやオーデマピゲのロイヤルオークを彷彿とさせます。
ブレスレットと一体型になったラウンド型のケースに、ベゼルにはリベット留めが5箇所配置されスポーティなデザインに刷新されています。
1970年代といえば、ラグスポ全盛期の時代でありその流れに乗って、インジュニアも大幅にデザインが変更されたのでした。
しかし、実際にはこちらのモデルはほとんど生産されませんでした。
と言いますのも、ラグスポのデザインは踏襲しているのですがケース径が大きすぎたからです。
ケース直径は40mmで、ケース厚は12mmあります。
今となっては40mmのケース径はスタンダードになっていますが、当時としては大きすぎるし時代にマッチしてなったんですね。
また、その後にクオーツショックが起きたので3代目インジュニアにとっては厳しい時代であったと言えるでしょう。
生産数はたったの976本(うち、ステンレス製は534本)であり、今ではこのモデルはジャンボと呼ばれており、インジュニアの中でも非常に希少性の高いモデルとなっております。
4代目インジュニア
耐磁性は500,000A/m(6,200ガウス)
その後、1983年になると次期型となるRef.3505がETA社製ムーブメントCal.375を搭載して、新しく生まれ変わりました。
それまで40mmあったケース直径はコンパクト化され、34mmになりムーブメントが薄くなったことでケース自体のスリム化にも成功しました。
このモデルの特筆すべき点は、軟質インナーケースを使ってないにも関わらず耐磁性が大幅に向上している点です。
耐磁性を見てみると6200ガウスあります。
それまでが1000ガウスだったのと比較すると、耐磁性が6倍にもなってるんですね。
どれくらいの耐磁性かと言うと、超強力な磁場を発生させるMRI(磁気共鳴断層撮影装置)にさらしても精度を保つくらいです。
1990年代前後に、他社が販売されていた耐磁性モデルの代表はロレックスのミルガウスや、ヴァシュロン・コンスタンタンのオーバーシーズがありました。
ミルガウスは1000ガウス(80,000a/m)
オーバーシーズは314ガウス(25,000A/m)
となっており、耐磁性というジャンルで見ればインジュニアが圧倒的な実力を誇っていました。
どのようにして耐磁性能を向上させたかと言うと、このモデルは、ムーブメントにニオブ・ジルコニウムをベースにした合金を使用しており、軟鉄製のインナーケージを必要とせず、強い磁場にも耐えることが出来たのです。
要するに、このニオブ・ジルコニウムという素材は磁気の影響を受けないから、精度を一番狂わせるヒゲゼンマイなどのパーツを筆頭にそれぞれのパーツ素材の見直しを行ったことで、超耐磁時計が完成したのです。
1985年には、後継モデルにあたるCal.3753を搭載したRef.3506が1985年に製造されることになりました。
Ref.3505とRef.3506はほとんど同じで、違いがどこにあるのか分かりにくいですが文字盤にあります。
後継機の3506は文字盤に、細かなラインが入りオーデマピゲのロイヤルオークのようになっていますよね。
その反面、前期型の3505はそのような装飾は入っておりません。
製造された数は、どちらかというと3505の方が少なくこちらの方が希少性が高いです。
そして、3代目モデルから文字盤に入っている『SL』の表記なのですが何かを表している訳でもなく、これは「何の意味もない」という説が有力です。
5代目インジュニア
5代目インジュニアの特徴は、ムーブメントにジャガールクルト社製Cal.889をベースに、IWC社がコンバートしたCal.887を搭載しているところです。
IWC社は自社で、品質規格部門を持つため、外部精度検定の[Chronometer/クロノメーター]認定を受けないことが多いですが、こちらのムーブメントはベースにジャガールクルト社製というのがあるので、このムーブメントでは認定を取得し[OFFICIALLY CERTIFIED CHRONOMETER]の表記が入っております。
生産期間が3年と短かったことや、ジャガールクルト社製のムーブメントを搭載させるのは、この時に作られたモデルだけですので、非常に希少性の高い人気のモデルとなっております。
そして、このモデルが2001年に生産が終了するとIWC社からはインジュニアは、一度ラインナップから外れることとなります。
6代目インジュニア
耐磁性能:80,000A/m(1000ガウス)
耐磁性能は1,000ガウス(80,000A/m)に戻ります。
2年間の時を空けて、インジュニアが再登場したのが2005年になってからのことでした。
デザインはリベット留めのビスを受け継ぎながらも、ビッグアラビアなどが採用されており、現代的なデザインになっています。
このモデルの大きな特徴は、ケース直径が42.5mmもあるということです。
現代では一般的なサイズですが、その前のモデルが34mmだったことを考えると8mmとかなり大型化されてています。
当時は、パネライの時計がデカ厚時計のブームを牽引していたので、その流れに対抗するために、このサイズになったのでしょう。
2005年の新登場から2年後の2007年になると、マイナーチェンジが実施されます。
このモデルの特筆すべき点は、裏蓋がシースルーバックになっているところです。
シースルーになっていることで、IWC社伝統のペラトン式自動巻機構を見ることが出来るのですが、冒頭で説明した『超耐磁性』というのは失われることになります。
とは言っても、こちらはシルバーダイヤル限定で搭載されたものであり、ブラックダイヤルの方は、それまで同様の裏蓋が使用されています。
そこまで耐磁性を求めてないけど、ペラトン式の機構を見たいという要望に対応する形で誕生した一時的なモデルだと言えますね。
よって、こちらのモデルは実は生産が少なく希少性が高いのが特徴です。
その他にも6代目インジュニアは、メルセデス・ベンツともコラボモデルを作ったりコンプリケーションやクロノグラフ機能を搭載させた、派生系やスポーツウォッチとしての方向性を見せることとなりました。
7代目インジュニア
耐磁性能:40,000A/m(500ガウス)
7代目の特徴は、かなり2代目のデザインに近いという所でしょう。
現代版2代目って感じですかね。
それまで継承されてきたベゼルのリベット留めとビッグアラビアがなくなり、全体的にフラットになっていますが、堅牢なイメージは維持されています。
かなりシンプルにまとめられており、3針、バーインデックスにデイト表示とインジュニアらしい作りになっています。
耐磁性は、500ガウス(40,000A/m)と初代から比較すると半分になってしまい超耐磁時計とは言いづらくなってますが、実際に生活していく上では充分すぎるくらいの実力を備えつつも厚みは10mmほどにおさまっているので、確実な実用時計としての役割を果たしてくれます。
インジュニア クロノグラフモデル
また、同時に誕生したのがインジュニアのクロノグラフスポーツ白文字盤で、こちらも原型のインジュニアを残しながらクロノグラフ機能が搭載されています。
ここでもシースルーバックが採用され、今回のモデルではクロノグラフのムーブメントを楽しむことが出来ます。
8代目インジュニア(現行モデル)
そして、今年2023年に誕生したのが最新型モデルであるIW328901になります。
今回は3代目のデザインに近いかなぁと感じます。
3代目モデルと大きく違うところは、リューズガードが初めて搭載されているところでしょう。
デザイン全体を見ても、スマートなパテックフィリップのノーチラスに近く、やはりジェンタのデザインを復活させていると考えるべきでしょう。
文字盤にも、凹凸のある格子状のグリッド装飾が施され、光の反射を抑え視認性が格段に良くなっています。
ケース径も40mmで納められ、現代版ラグスポと言っても良いのではないでしょうか。
まとめ
最後にまとめなのですが、インジュニアの歴史を振り返ってみていくと、それぞれの年代のモデルに魅力がありどれもIWCの堅牢なイメージに結びついていたと思います。
新型に近づくにつれて、耐磁性は段々と小さくなっていきましたがそれも時代の流れに合わせて、必要なところは残し不要な部分は削いでいくという選択があったからでしょう。
自分が普段の生活の中で、どんなシーンにインジュニアを着用するのかを考えて選べば、必然的にどのモデルが最適解であるかを導き出せます。
新しいモデルも、古いモデルもそれぞれに魅力があり、当時の最先端の技術を搭載させているからこそ、色褪せることなく現代を生きる私たちを魅力するのかもしれませんね。