アメリカの伝統的ブランド【ハミルトン/ホイヤー】が手がけたスイス製クロノグラフ

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ハミルトンがスイスに生産拠点を移行させた歴史的背景

1966年、アメリカ・ペンシルベニア州ランカスターに本社を置くハミルトン社は、スイスの時計メーカーであるビューレン社を買収しました。

このチャンネルをご覧になってる方は、すでにビューレンは聞いたことがあると思われますが、有名なところで言えばイギリス陸軍に採用されたダーティダースの1社でもありますよね。

そもそも、オメガやIWC以外にも採用されているブランドなのですが、採用されるのには理由があります。

ビューレンに関して言えば、スイスの老舗ブランドであり、創業は1898年とかなり古いです。

そのために、自社製ムーブメントを開発する能力を持つメーカーで、当時は手巻きの耐久性や精度で高い評価を得ていましたし、その後も自動巻を誕生させ自動巻でも高い評価を受けたどちらかというと、ムーブメントに強いブランドでした。

話をハミルトンに戻しまして、買収後、ハミルトンとビューレンは共同でアメリカとスイスの工場の2箇所で時計を製造していましたが、1969年にアメリカのランカスター工場を閉鎖し、すべての生産をビューレンのスイス工場に集約しました。

この動きは、前述したビューレン社を買収したことが大きなきっかけです。

これにより、1969年以降のハミルトン製品はスイス製となり、ブランドの打ち出し方(マーケティングで使われる触れ込み)も「アメリカの伝統を持つスイス時計ブランド」へと変化していきました。

ビューレンを買収したことで、ムーブメントの技術を大きく飛躍させたハミルトンはホイヤーやブライトリング、デュボワ・デプラと協力して当時どの会社が先駆けて達成を実現するかと世間が注目していた**世界初の自動巻きクロノグラフ「Caliber 11」**を開発しました。

これは、後にハミルトンの名作「クロノマチック」の心臓部として知られるムーブメントです。

この世界初自動巻クロノグラフ競争については、こちらの動画で詳細に解説しておりますので気になる方はこちらの動画もご覧ください↓

 

 

ホイヤーが製造するハミルトンのクロノグラフ

話をハミルトンとビューレンの関係に戻しまして、このビューレンの吸収が何を意味していたのを解説します。

前述した通り、ビューレンは当時は手巻きと自動巻を自社で設計開発製造する技術を持ち合わせていましたが、クロノグラフの知見は持ち合わせていませんでした。

クロノグラフはムーブメントの設計や製造が非常に複雑で、高度な技術を必要とします。

これはハミルトンも同様に、既に優れた時計を製造していましたが、クロノグラフに特化した技術や設備を持っていませんでした。

そのため、連合を組んだ際のハミルトンとビューレンの役割は、土台となる自動巻のベースムーブメント担当の側面が強かったのです。

クロノグラフにおいては、クロノグラフ技術に長けていたホイヤーやバルジュー(Valjoux)などに頼るのが合理的であり、そのための連合だったのです。

要するに、自社の強みを結集させてブランドの垣根を超えて、自動巻クロノグラフを開発していったということですね。

そしてこれは、連合を組む前の製造スタイルからもスイス時計産業の協力関係が見えてきます。

ホイヤーは1960年代、レーシングクロノグラフの名作「カレラ」を自社ブランドで製造する一方、ハミルトンやクレバー(CLEBAR)、ゾディアックといった他ブランドの時計も製造していました。

繰り返しますが、ホイヤーは他社ブランドのクロノグラフも製造していたのです。

その背景を解説します。

1960年代の時計業界は、クオーツ革命の前段階にあり、機械式時計の競争が激化していました。

ハミルトンが独自のクロノグラフムーブメントを開発するには、相当なコストと時間がかかります。

よって、すでにクロノグラフの実績があるホイヤーに委託することで、コストを抑えつつ市場に製品を供給できたのです。

今回はハミルトンの話ですので、ハミルトンのクロノグラフを挙げていますが、これはクレバーやゾディアックも同様にホイヤーが製造をしてくれていました。

ちなみにですが、ホイヤーはすでに1960年代にクロノグラフの分野で大きな実績を持つブランドであり、OEM(委託生産)事業を積極的に展開していました。

ですので、連合を組んでいないクレバーやゾディアックであってもクロノグラフの製造をお願いして、実際に現代にまでそれらが残ってるんですね。

そのような背景があり、ハミルトンはホイヤーの技術を利用し、「Valjoux 7730」などの信頼性の高いムーブメントを搭載したクロノグラフを手頃な価格で市場に提供しました。

これにより、ハミルトンはクロノグラフ市場で一定の成功を収め、後年に自動巻きクロノグラフ、 Cal.11を搭載させたクロノマチックへのステップアップにもつながりました。

もちろんこの時、ですので1969年にはホイヤーも世界初の自動巻クロノグラフの触れ込みの「オウタヴィア」「カレラ」「モナコ」を発表し、ブライトリングもクロノマチックを発表しました。

当たり前の話ですが、この世界初の自動巻キャリバーの開発に携わっていなかったクレバーやゾディアックは、自動巻クロノグラフ搭載モデルを発表することはできませんでした。

このような歴史があり、ハミルトンの手巻き、自動巻クロノグラフ共にホイヤーが製造をしてくれていたのです。

 

 

ホイヤー製クロノグラフの「代替版」

ではここからは、今回のクロノグラフに移しまして、このようにホイヤーが製造を委託してくれていた手巻きクロノグラフは、主に2レジスターまたは3レジスターのクロノグラフで、白や黒のシンプルな文字盤が特徴的です。

ハミルトンのクロノグラフは、特に1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ホイヤーが製造を担当したモデルが多かったため、いわゆる「Poor Man’s Heuer(庶民のホイヤー)」として知られていました。

搭載ムーブメントは、Valjoux社製手巻きCal.7730でありクラシカルなデザインが特徴的です。

デザインは、1960年代のレーシングクロノグラフの伝統的なスタイルが反映されています。

では文字盤を見てみましょう。

9時位置:スモールセコンド

3時位置:30分積算計

中央:クロノグラフ用の秒針(未作動時は静止)

トリチウムを使った夜光インデックスと針が備えられています。

文字盤の外周には、速度や距離を計算できるタキメーターが印字されています。

ケース径は36mm、厚さ約12mmと非常に快適なサイズ感で、ドレスシャツの袖下にも収まりやすく、ほとんどいないと思われますが、レーシングスーツの上にも着用可能です。

また、レイアウトの美しい左右対称性が視覚的にも大きな魅力となっています。

 

ムーブメントを見て行きましょう。

この時計に搭載されているValjoux 7730ムーブメントは、1966年から1973年までの間に約17万5000個が製造されました。

  • 特徴

    • 手巻き式

    • 振動数:毎時18,000振動

    • パワーリザーブ:約45時間

    • ベース:ヴィーナス188

7730ムーブメントは、ヴィーナス社が1960年代半ばにバルジュー社に買収された際に再設計されて誕生しました。

ですので、ヴィーナス名ではCal.188だけどバルジューに買収された後にキャリバーNoが変わって7730になったんですね。

このムーブメントは動作音が比較的大きく、手首の上でその存在感を感じさせてくれるのも特徴です。

リューズを回す時の感触、プッシャーボタンの押し込む時の感触も素晴らしいです。

 

ハミルトンのこのクロノグラフは、知る人ぞ知るコレクターズアイテムだと言えます。

2023年は、ホイヤーの「カレラ」が誕生してから50周年の記念すべき年でした。

この影響で、カレラだけでなく、いわゆる「プアマンズ・カレラ(庶民のカレラ)」と呼ばれるこれらのハミルトン製クロノグラフにも注目が集まっています。

今日では、ホイヤーとハミルトンの1960〜70年代のクロノグラフは、いずれもヴィンテージ市場で注目されています。

ホイヤーは当時のオリジナルモデル(特にカレラやモナコ)はコレクターズアイテムとして高額取引されています。

ハミルトンはホイヤー製造モデルが「隠れた名品」として見直され、ホイヤーと比較して手頃な価格帯のヴィンテージクロノグラフとして人気があります。

実際にこちらのモデルは、ほとんど市場に出てくることがありませんので、コレクターの手に渡ってしまって、手放されてないのでしょう。

このように、当時の世間的評価と現在のコレクターズ評価には、大きな違いがあるのがヴィンテージウォッチの楽しみでもありますよね。

クラシカルなデザイン、アメリカブランドの伝統、ホイヤー製造の品質を兼ね備えたこれらの時計は、今後もコレクター市場で価値を保ち続ける、もしくは価値が上がっていくことが想定されることでしょうね。

男性の方であれば、ほとんどの方がかっこいいと思えるデザインですし、小型のクロノグラフが好きだ!

という方にこそ、相性が良いモデルですね。