オメガの機械式時計・手巻き時計 コーアクシャル脱進機と機能について

オメガを代表する脱進機=コーアクシャル脱進機

オメガのコーアクシャル脱進機のムーブメントの画像 cal.2500

α(アルファ)は物事の始まりを表すギリシャ文字、そして対になるオメガ(Ω)は終焉、つまり究極の状態を意味する言葉です。

そして時計メーカー「オメガ」はその名に恥じない、メーカーです。

特に技術革新に関しては、他のメーカーの一歩も二歩も先を行った、時計メーカー最高のパイオニアなのです。

オメガの時計は常に人類未踏の陸、海、そして宇宙にも人類と共にしてきました。

かつてアポロ計画などでNASAが宇宙で使用するための時計を選定した際には、選定というより、時計を壊すかのような実験を行ったといいます。

その中で残ったのは、オメガのスピードスターだけだったのです。そのため月面に人類と共に降り立った時計はオメガだけです。

宇宙のような過酷な環境においても、その針の動きに少しの狂いも生じさせない、正確性と耐久性は目を見張るものがあります。

1960年代から技術面で抜きんでていたオメガですが、1999年、さらにオメガは腕時計の歴史200年分進化させる技術を開発します。

それこそが今日知られる、コーアクシャル脱進機です。

「コーアクシャル脱進機」を説明にする前に、そもそも「脱進機」とはどういう仕組みになっているのか?そもそも機械式の腕時計はどうやって動いているのか?それを説明する必要があるでしょう。

自動巻き、手巻きに関わらず、機械式腕時計は、ゼンマイを動力にし、歯車を回して動いています。

クオーツ式腕時計のように電気信号によって動いているわけではありません。

オメガのコーアクシャル脱進機のムーブメントの画像 cal.2500

そんな中で、時計の中の歯車が限りなく同じスピードで回転し続けなければなりません。

そうしなければ1日つけているうちに大きな狂いが生じ、使い物にならなくなってしまうからです。

機械式腕時計の心臓部は「調速機」と「脱進機」から成り立っています。

「調速機」は「ヒゲゼンマイ」と「テンプ」によって構成されています。等時性のある「ヒゲゼンマイ」の伸縮を利用し、貯めたエネルギーを一定の割合で「テンプ」に送ることによって、「テンプ」の輪が規則正しい往復回転運動が生み出る部分です。

同じ重りとヒモの長さであれば、揺れ方の大小の関係なく、振り子が一往復する時間は同じです。

これは16世紀の天才科学者ガリレオ・ガリレイが1583年に発見した「振り子の等時性」です。機械式腕時計はこの等時性を利用して時間の進みを一定に保ちます。

振り子の仕組みを小さく持ち運びができるようにしたものが「テンプ」です。

なお、現在のオメガのムーブメントは「ヒゲゼンマイ」がシリコンになっているので、より磁力に強く、耐久性にも優れています。

「脱進機」は「ガンギ車」と「アンクル」によって構成されています。「テンプ」に対して往復回転運動(つまり振り子の動きのことです)するための力を与え続けるとともに、「テンプ」からの規則正しい往復回転運動で輪列を制御します。

「振り子の等時性」を利用して一定速度で歯車が回転するための仕組みが「脱進機」です。ゼンマイの動力で回転し続ようとするギザギザの歯車「ガンギ車」を、振り子と連動する爪、つまり「アンクル」が受け止めたり外したりすることで、「ガンギ車」が一定速度で回転することになります。

ガンギ車の軸のカナと時計の針を動かす歯車達を連動させることで、正しく時間を刻むようになるのです。

そして「リューズ」を巻き上げることによって、ゼンマイに力が伝わり、機械式腕時計は動いています。なお、自動巻きの場合は「ローター」が付いています。腕を振るなどの運動によって「ローター」が動き、その力がゼンマイに伝わり、動くといった仕組みになっています。

そのため、手巻き式のものと違い、自動巻きはつけっぱなしにしていれば、「リューズ」を巻き上げる必要がありません。そのためゼンマイ切れしにくいという利点もあります。

さて、時を刻み続けるためにこの最も働いている、この「脱進機」には大きな摩擦が生じています。つまりこの摩擦をできる限り少なくすることが機械式腕時計の精度を高め、耐久性を上げることになるのです。

19世紀から採用されてきた従来の脱進機は、「テンプ」をこすりあげる角度が大きいため、振り子の等時性が働きにくく、ゼンマイの力をロスするという大きな欠点がありました。それらの欠点を解決したのが「コーアクシャル脱進機」です。

「コーアクシャル脱進機」ではこの「アンクル」の爪が3つになっており、かつ「ガンギ車」との接触方式が、こすりあげる(直線動作)のではなく、弾く(点接触)仕組みになっています。

そのため「ガンギ車」と「アンクル」の接触面積が減り、しかも力の伝導効率を上げることにも成功しました。この仕組みの発明は、2世紀もの間、誰も削ることができなかった「テンプ」のこすりあげる角度を削ることを可能にしたのです。

オメガのコーアクシャル脱進機のムーブメントの画像 cal.2500

その結果、振り子の原理はより働きやすくなり、力のロスは減り、衝撃や姿勢差にも強くなりました。

接触面積が減ったことによって、注油のサイクルも従来の脱進機と比べ、はるかにサイクルが長くなったのです。

つまりオーバーホールの必要サイクルを長くすることを可能にしたのです。従来のオーバーホールのサイクルが3~5年に1回だったものが、10年に1回のサイクルにまで延ばすことになったのです。

この世紀の大発明「コーアクシャル脱進機」を発明したのは、ジョージ・ダニエルズ博士です。時は1978年でした。オメガが実用化に至った1999年よりも20年以上前の話ですが、その間何も起きていなかったわけではありません。

ダニエルズ博士は「コーアクシャル脱進機」のプロトタイプをロレックスなどの時計メーカーに持ち込んでいたのです。

しかし、開発難度の高さ、量産の困難さのために、オメガ以外のメーカーは尻込みしてしまったのです。ロレックスに至っては、この仕組みを理解すらできなかったともいいます。ただ、パイオニアたるオメガは、製品化にあたって生じる、山のような課題に挑戦し続けたのです。

その結果が現在に至ります。

オメガのコーアクシャル機構はその後何度か改良され、2015年現在ではさらに進化させたマスターコーアクシャル機構がオメガの時計の標準になりつつあります。

マスターコーアクシャルは15000ガウス以上もの磁力に耐えうる、超耐磁機構です。現在マスターコーアクシャルは「シーマスター」、「デ・ビル」、「コンステレーション」の一部にしか用いられていませんが、オメガは今後数年のうちに「スピードマスター」も含めた、すべてのモデルにマスターコーアクシャル機構を導入すると宣言しています。

実用の面でいえば、今後オメガを買うなら、マスターコーアクシャルの時計を選択するのが正解だと思います。しかし従来のコーアクシャルを搭載したものは今後なくなってしまうので、あえてコーアクシャル搭載の腕時計が欲しいとおっしゃるのであれば、買うのは今のうちだと思います。お見逃しなく!

コーアクシャルの部品
コーアクシャルの部品