消えていったオメガ スピードマスター派生型!自動巻モデルの魅力解説

 スピードマスターの派生モデルについて動画でご覧頂きたい方はこちらから↓

前回は、歴代スピードマスターの進化を解説させて頂きました。

そして今回はですね、そんなスピードマスターの進化の過程で誕生した派生モデルをメインに解説をして参ります。

今のスピードマスターの派生モデルは知ってても、それまでに消えていった派生モデルがどんなものであったかほとんどの人は知らないと思います。

この動画を最後までご覧頂くことで、スピードマスターになぜ様々なモデルが存在しているのかや、ムーブメントの進化の歴史を知ることが出来ると思いますので、是非最後までご覧ください。

 

 

スピードマスター派生モデル誕生の歴史

スピードマスターとフライトマスターとMARKⅡの関係

月に降り立った世界で初めての時計として、スピードマスターは人類に足跡を残しましたがそれと同じタイミングで、1969年に2つのモデルを市場に投入しました。

それがスピードマスター『マークⅡ』と『フライトマスター』という派生モデルになります。

 

オメガ スピードマスター派生モデル フライトマスターとマークⅡ

 フライトマスターは70年代に流行った、オーバル型の分厚いケースが採用してありマークⅡの方は、表面こそオーバル型に見えますが、通常のケースが使用してあります。

オメガ フライトマスター

オメガ スピードマスターMARKⅡ

ここからは時代背景を見ながら、なぜこれらのモデルが誕生したのかを解説して参ります。 

1969年とは、自動巻クロノグラフ元年であり大きく分類すると、3つのグループから自動巻クロノグラフが誕生しました。

1つ目が、ゼニス、モバード連合であり自動巻クロノグラフ〝エルプリメロ”を発表し、2つ目がホイヤー、ブライトリング、ハミ ルトン連合が”キャリバー11"を発表し、3つ目のセイコーが“スピードタイマー、で自動巻きクロノグラフを発表したことで、急速に『自動巻クロノグラフ』が市場で求められるようになっていきました。

そんな時計業界に転換点をもたらした69年ですが、オメガ社はというとこれと言った自動巻の代表モデルを準備することができていませんでした。

フライトマスターは、自動巻のように見えますが実際に搭載されてるムーブメントはCal.861であり、もちろんマークⅡも同じでした。

このようにオメガ社は、自動巻モデルを市場に投入することが出来ず、苦肉の策として自動巻っぽく見えるコレクションを追加するという戦略に出た結果、このような時計が誕生したと言えるでしょう。

ちなみに、この2つの時計なのですが生産期間が2年であることと、当時はあまり売れてなかったみたいで、製造された個数が少ないためにまぁまぁ高額で取引されています。

そんな微妙なポジションで誕生した2モデルですが、これらを合体させたようなマークⅢが誕生します。

ここからは、次期型であるマークⅢを見てみましょう。

 

 

スピードマスター初の自動巻モデル マークⅢの誕生

オメガ スピードマスターMARKⅢとCal.1040

各社から自動巻クロノグラフが発表された1969年から、遅れる2年後の1971年にスピードマスター初の自動巻きモデルとして、スピードマスターマークⅢが誕生しました。

オメガのプレスリリースのなかでマークⅢは“パイロットケースに収められたオメガ初の自動巻きクロノグラフ”と紹介されていますが、このパイロットケースとは、68年にパイロット向けに特別設計された、フライトマスターのオーバル形ケースのことなんですね。

70年代に流行ったこの形のケースなのですが、非常に厚みがあり独特の形から海外ではボルケーノ(火山)とも呼ばれています。

搭載ムーブメントは、手巻きのCal.861をベースに自動巻き化したCal.1040が採用されます。

感覚的にいうと、デザインをマークⅡから進化させて、機能をフライトマスターから譲り受けてる感じだと思います。

変更点は手動巻きから、自動巻に代わったことによって、3時位置にデイト表示が追加され70年代らしいスタイルに進化しています。

このマークⅢも製造期間は2年ととても短命で、オーバル型のケースはマー クⅢ以降採用されなくなりましたが、これらの機能は後年の自動巻きモデルに引き継がれていくことになります。

 

ではここからはですね、オメガ社初の自動巻ムーブメントがどんなものだったのか?というのを解説して参ります。

 

オメガ社初の自動巻 Cal.1040

前回の動画でも解説してる通り、SSIHグループに属していたレマニア社は堅牢で、壊れないムーブメントを作ることが出来るメーカーでした。

レマニア社について、あまり詳しく知らないという方はこちらの動画をご覧ください↓

Cal.1040は、オメガ社とレマニア社の共同で開発されたムーブメントでありこれは、レマニア社が既に開発していた、Cal.1340をベースに製作されたクロノグラフムーブメントになります。

このレマニア社のCal.1340ムーブメントは、ベースにCal.861が置かれており開発者はラオル=アンリ・エラールとアルバート・ピゲという天才設計士によって生み出されたものになります。

よって、いくつかのパーツはCal.861のものが共通で使用されているのです。

60年代に入ってからの人件費高騰によって、コストダウンを迫られる各社でしたが、このような努力の甲斐があってSSIHグループは、汎用性に優れたムーブメントを大量に作れる体制を整えることが出来たのです。

ムーブメントの特徴は、2レジスターのムーブメントで、文字盤の6と9にサブダイヤルがあり、中央に4本の針が装備されています。

それぞれの配置を解説します。

中央の2つのバトン針は『時針』と『分針』

残りの2つの針が『クロノグラフ秒針』『60分クロノグラフ積算計』(飛行機の形をしている針)
・6時位置に12時間積算計
・9時位置のスモールセコンド
・3時位置に日付表示窓

またほとんど同じムーブメントで、Cal.1041というのがあるのですがこれはCal.1040をクロノメーター化したものになります。

ここまでのケースとムーブメントについてまとめると、おそらくオメガ社は自動巻クロノグラフが他社から発売された、1960年代後半から70年代にかけてクロノグラフの主役であった5代目のデザインを、大幅に変更させたくなかったのだと思われます。

よって、5代目の派生系という形でマークⅡ、マークⅢを誕生させ特にマークⅢでオメガ社の自動巻モデルの普及を狙ったのではないかと考えております。

 

マークⅣとオートマチックとCal.1045

オメガ スピードマスターMARK Ⅳ

 

マークⅢの次期型のマークⅣが1973年に誕生します。

搭載ムーブメントは、同じくCal.1040を搭載していますがケースがかなり薄型化されました。

感覚的には、マークⅢのデザインを受け継ぎながらも、ケースをマークⅡのものにしたような感じです。

ムーブメントが同じなので、機能はマークⅢと代わりはありません。

マークⅣも製造期間は短く、1973~75年の2年間で製造終了してしまいます。

そして、マークⅣまでは、文字盤に“PROFESSIONAL” 表記が与えられていましたが、Ⅳを最後にこの表記は削除されることになります。

 

また、次期型にⅤが誕生するかと思われましたがそれはなく、事実上の次期型はスピードマスターオートマチックになると思われます。

では、スピードマスターオートマチックを見てみましょう。 

オメガ スピードマスターオートマチック

1974年に登場した新型のスピードマスターオートマチックでは、レマニア社のCal.5100のオメガ版であるCal.1045が搭載されました。

ではですね、ここからは最高傑作と言われるレマニア社のCal.5100ムーブメントを詳細に見ていきましょう。

レマニア社製Cal.5100を一言で解説すると、プレス加工されたスチールやプラスチック等の、シンプルな素材で作られたムーブメントであるということです。

当時、セイコーが生み出したの安価なクオーツムーブメントに対抗し作られたもので、組み立てやメンテナンスが安価にできるように設計されています。

マークⅢ と Ⅳに搭載されていた、キャリバーの完全進化系であり性能を向上させつつも、コストダウンを実現したムーブメントと言えるでしょう。

その前のキャリバー1340と機能は同じなので、4本の針を装備しているのが特徴です。

このムーブメントの一般的な認識は、汎用性のある安物ムーブメントだと思いますが、確かにそれは事実です。

しかし実際のムーブメントは、機能性、精度、堅牢製を備えておりハイブランドに搭載されているのであれば、安物だと言われて仕方ないでしょうが、過酷な環境で使用するシーンの時計ブランドから出されているものであれば、実力から見れば素晴らしいムーブメントだと言えるでしょう。

ただし、このムーブメントを搭載していたとしても、当時同じムーブメントを搭載し、存在感があったポルシェデザイン オルフィナの堅牢な腕時計のイメージには太刀打ち出来ず、やはりオメガ社の中でも微妙な立ち位置だったと思われます。

オルフィナ ポルシェデザイン Orfina-Porsche-Design-watch

ポルシェデザインのオルフィナの時計については、こちらの動画で詳しく解説しておりますので興味のある方はご覧ください↓

そんなスピードマスターオートマチックの製造期間は、1974〜78年の4年間だったと言われています。

その後1979年に、クオーツを採用したスピードマスタープロフェッショナルクオーツが誕生しましたが、この時計もすぐに製造中止となったので、この時計については説明を省略します。

スピードマスタープロフェッショナルクオーツ

 

スピードマスターリデュースド & デイト 

オメガ スピードマスターリデュースド 搭載ムーブメントCal.3220

クオーツラインを出したスピードマスターですが、クオーツもほとんど売れることなく、自動巻を進化させて新しいモデルを誕生させます。

まず1つ目が1988年に、スピードマスターリデュースドを発表します。

リデュースドというのは、英語で『縮小』という意味を持ってるのですが、その名の通りスピードマスターの廉価版に当たります。

他社の話ですが、ロレックスとチュードルでも上手に展開し成功した通り、ムーブメントを安価なものに変えることで、外観は本家スピードマスターだけど安く手にすることが出来るモデルとなりました。

これまで、試行錯誤して自動巻スピードマスターを普及させようとして、失敗してきましたがこのモデルの誕生によって報われることとなったのです。

ムーブメントは廉価なクロノグラフに搭載されていた、ETA社のCal.2890にデュボア・デプラ社のクロノグラフモジュールを載せたものでした。

それまでのモデルは、大体2年と短命に終わってたのですがこのモデルは2012年までと、およそ25年間製造され続けるロングヒットモデルとなったのです。

リデュースドの発売から2年後の1990年に誕生したのが、『スピードマスターデイト』になります。

オメガ スピードマスターデイト

ETA社の代表的なムーブメントであるCal.7750をベースに作られたもので、Cal.1164が搭載されています。

(画像のムーブメントはそれをコーアクシャル化したCal.3330になります)

こちらもリデュースド同様に、廉価モデルとして誕生したものであり値段に対して、実用的であるという理由から大ヒットすることになります。

元々はCal.1155が搭載されていましたが、それがCal.1152に変わりそのクロノメーター版としてCal.1164に進化していきました。

そして、それをさらにコーアクシャル化させたのがCal.3330であり、これは現行モデルのレーシングに搭載されています。

 

 

まとめ

70年代後半から90年代前半にかけて、クオーツで勝負することも出来ず安価でありふれた自動巻ムーブメントを使用する他なかったスピードマスターですが、モデルを増やすことでどうにか乗り越えてきました。

ここまでかなり苦戦を強いられてきた、自動巻版スピードマスターですが90年代後半からは他のスイス時計ブランドもそうですが、ここを乗り切ったことで生き残ったブランドは再度躍進していくことになります。

もちろんオメガ社もそうで、当時の市場は機械式は時代遅れの代物ではなく、職人の手仕事を良しとする、高級品というポジションに位置付けられるようになっていました。

 

60年代後半から、80年代後半にかけて苦しい展開を強いられてきたスピードマスターの派生モデルですが、そういった試行錯誤があったからこそ今のモデルに受け継がれ、オメガ社が独自に誕生させた自動巻ムーブメントに繋げていくことが出来たのでしょう。