クロノグラフ腕時計 ブライトリングの歴史的名品― コスモノート&カデット

ブライトリングの歴史的名品― コスモノート&カデット

 
 

ブライトリングはBの文字の両サイドに大きく伸びる翼のロゴからもわかるように空と関わりの深い時計メーカーです。
 
創業して間もなく、ブライトリングは空軍やパイロット向けの精密時計を作り、技術力を発揮してきました。
 
そのブライトリングの歴史の中で大きな足跡を残したモデルを今日はご紹介したいと思います。
 



【ブライトリングの歴史】


ブライトリングは1884年スイス山脈の村、サン・ティミエで創業した時計メーカーです。
現在ではエアーショーやレースのスポンサーをしていることから、漠然と「空とかかわりの深い時計」というイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
 
実はブライトリングが最初に作ったのはパイロット専用のポケットウォッチ(懐中時計)やコクピット機器などの専門性の高い精密計器でした。

その後、30分積算計を装備した腕時計型クロノグラフを発表。これを皮切りに航空機専用の時計の開発を積極的に行い、他に類を見ない独自の路線を進み始めました。

時計の開発段階でパイロットたちと親交を深めたブライトリングは1936年にイギリス空軍が軍の正式時計として採用を決定します。

その後1952年にはブライトリングは航空用回転計算尺を搭載したクロノグラフ、ブライトリング・ナビタイマーを生み出しました。

この発表を機にブライトリングは世界各国の主要航空会社のコクピット・クロックの供給を開始しました。
 
第二次世界大戦後、アメリカとソ連による宇宙開発競争を中心に世界の注目は地球を飛び出し、宇宙へ向くようになりました。ブライトリングはいち早くこの流れを読み、宇宙でも使用できる時計の開発を進めました。コスモノートが生まれたのもこの頃です。
 
今回はさらっと大まかに歴史をさらってみただけですが、これだけでもブライトリングは変化しつつある時代の流れの中、留まることなく革新を続けているブランドだと言えるでしょう。
 
それでは革新的な時計として、今なおファンが多く愛用している時計コスモノートとカデットについて見ていきましょう。
 


【ナビタイマー・コスモノート】

 
1962年5月24日。

アメリカ人宇宙飛行士、スコット・カーペンターがオーロラ7号のカプセルに搭乗し、地球を3周したというニュースが世界中を駆け巡りました。
 
時代はアメリカとソビエト連邦による宇宙開発競争の真っ只中。
初っ端からソ連に遅れを取ってしまったアメリカは国の全精力を挙げて地球周回軌道に人間を送り、安全に帰還させるプログラムを成功させるべく、動いていました。
 
この計画こそがマーキュリー計画です。
 
ローマ神話の旅の神様メルクリウスから名付けられたこの計画には200万人もの人が関わったと言われています。
 
そしてこの計画の成功のわずか数週間後、アメリカは月への有人飛行計画― アポロ計画を発表するのでした。広大すぎる宇宙への人間の小さく、しかし人類として大きな一歩を歩んだこの時、宇宙飛行士の腕に巻かれていたのがブライトリングの時計でした。
 
宇宙飛行士スコット・カーペンターが飛行時に身に着けていた時計は24時間表示のあるブライトリングの時計、ナビタイマーでした。昼も夜もない宇宙という暗闇の中、スコットの飛行を支えたのがこの腕時計です。この時身に着けていたナビタイマーはのちに「歴史上初めて宇宙で使用されたクロノグラフ」として知られるようになりました。
 
人類の偉業を共にしたブライトリングのこの時計は宇宙に行った経緯から「コスモノート」という名前が付けられました。
 
時間把握が困難な宇宙空間でも快適に使えるよう、そして何よりも宇宙飛行士たちの飛行を支えられるよう、手巻き式のムーブメントを搭載し、24時間表示できる盤面をデザインしました。この二つの要素はまさにスコットが飛行した1962年のモデルのままであり、今なおコスモノートのデザインに引き継がれています。
 



宇宙飛行時に着つけていたのと同モデルのコスモノート。



24時間表示にまつわる話

 
ブライトリングのコスモノートの大きな特徴の一つが24時間表示の盤面のデザインでしょう。デジタル時計が増えた昨今では12時間表示と24時間表示についてあれこれ考えることなどないと思うのですが、アナログダイヤルの時計では24時間表示の時計の数は少なく、レアな商品でした。一般の時計ファンではなく、パイロットなど主に軍の要望を叶えた機能と言っても過言ではありません。
 
そもそも24時間表示が広まったきっかけはアメリカ軍からの注文でした。AM/PM表示による時間の勘違いをなくすため、軍では時間を必ず24時間単位で使用しています。日本やアメリカ、ヨーロッパでは飛行機の搭乗時間など正確性が求められる場所では日常でも24時間表示となっているところがありますね。なので軍が使用する時計の機能として24時間表記を求めたのは必然でした。
 
盤面のデザインを12時間から24時間に変更することは、実はそこまで難しいことではありません。ムーブメントの中のギアと歯車の歯を少し付け加えることで変更できるそうです。それよりも難しくなってくるのが盤面のデザインです。表示しなければいけない情報が多くなると盤面が数字と針でごちゃごちゃになってしまいがちです。しかし迅速性が求められるフライトなどの場面では瞬時に情報を正確に読み取れることが重要なポイントとなります。軍やフライトで使用されることの多いブライトリングでは一目で盤面の情報を見やすくできるよう、工夫を凝らしました。
 
実はこの改良をまずブライトリングに持ち掛けたのはスコット本人でした。1959年に彼はナビタイマーに24時間表示の盤面に変えてほしいと要望を出しました。彼はこの時計に愛着があり、宇宙飛行士になる前に参加した朝鮮戦争時にもブライトリングの時計を身に着けていたとも言われています。
 
スコット・カーペンターが宇宙に初めて身に着けて行った時計はブライトリング・ナビタイマー・コスモノート809です。この時計は幅43mmの若干大型のものでした。このケースの裏側にはこの宇宙飛行を記念する特別な刻印が施されています。実際スコットが身に着けた時計は地球着陸時のショックで壊れ(当時の時計は防水ではなかったため)、行方も分からなくなってしまいました。しかし歴史的出来事と共にあったことは紛れもない事実として今日まで時計ファンたちが語り継いでいます。
 


こちらのコスモノートにはカーペンターの名前とマーキュリー計画の文字が刻印されています。


多くの著名人に愛されたモデル


コスモノート809は多くの著名人に愛されたモデルとしても有名です。白黒の洗練されたデザインを愛用した人の中にはジェリー・サインフェルド(人気コメディアン)、グラハム・ヒル(イギリスのF1レーサー)、そして世界的ジャズ演奏者のマイルズ・デイビスがいます。
 
 

時代によるナビタイマーの変遷

ナビタイマーの第一世代(1950年前半に作られたもの)は黒のダイヤルとアラビア数字表記の盤面が特徴です。

第二世代になると数字ではなく、インデックス表記が主流となり、ダイヤルもシルバーのものとなっています。
また、初期のナビタイマーの大きな特徴としてブライトリングのロゴはなく、AOPAの翼のエンブレムが描かれています。(AOPAとはAircraft Owners, and Pilots Associationの略。)さらに貴重な時計になるとAOPAの翼と共にブライトリングのロゴではなく頭文字のBを施したものがあります。
 


写真でも宇宙服の上からブライトリングの時計を付けているのが写真でもわかります。 


1962年は人類の歴史的にも、そしてブライトリングとしても非常に大事な年だったと言えます。そして今から5年前の2012年にはスコット・カーペンターの偉業達成から50年を記念して、リミテッドエディションのコスモノートを発売しました。

盤面の美しさと洗練されたデザインは今なお健在です。

 
 
 

【ブライトリング クロノグラフ腕時計 カデット(Cadette)


 
1950年は世界大戦を終えたものの、アメリカとソ連の対立が顕著になり、動乱が続いていた時代でした。
 
そんな時代に生まれたブライトリングの名品の一つがカデットです。
 
この時計はシンプルさの中に品があり、時計コレクターの欲しいものリストに必ず入るような時計です。その中でも特に人気だったのがブライトリング1190カデットだと言われています。
 
ヴィンテージのブライトリングを愛したアメリカのコメディアンのジェリー・サインフェルドや世界的ジャズ奏者のマイルズ・デイビスもこの1190カデットを愛用していたそうです。
 


カデットの名前の由来

 
さて、ブライトリングといえば別記事でも紹介した通り、正確性を求めるモータースポーツや機敏性が重要となる軍(特に空軍)と一緒に発展を遂げてきた時計メーカーです。

カデットは陸軍士官学校や海軍兵学校の士官や幹部候補生である生徒たちを表す言葉です。この言葉の意味が時計そのものと直結しているかは、残念ながら不明ですが、カデットのシンプルなデザインはこれから未来を担う候補生たちの未来への希望を感じるようにも思えます。
 

シンプルさの中に輝く品

カデットは基本的に二つのクロノグラフスモールセコンドが付いている3針モデルです。盤面の外周をぐるりと囲むように目盛りを配置しているので、その高い機能性にも関わらず盤面には余白があり、すっきりとしています。