クロノグラフ腕時計 兵士にとって欠かせない腕時計 ミリタリー・クロノグラフ

戦争は地上戦からやがて大空へと舞台を移していく

大きな国々は、産業革命の後に自国の軍隊に科学の最先端技術を取り入れようと必死になりました。

その貪欲さは、時計に関しても同じことでした。

計測機器は、軍隊にとって非常に重要なウエイトを占めるものだったのです。

実際に見つかった、ロシアの海軍に納入されたデッキ・ウォッチは1880年代後半製ですし、イギリス海軍で使用されていた懐中時計は1990年代の初頭のものでした。

1899年から1902年に勃発したボーア戦争は、「戦場で両手を使いながら、自国が確認できるように」という兵士の恐ろしい理由から腕時計はやがて、ミリタリーウォッチへと変貌を遂げるのです。

ミリタリー・ウォッチは、風防を金属メッシュの保護ガードで守ったタイプの腕時計も誕生していました。

シーマ社においては、この保護ガードをヒンジ止めにするという技術を用いたのです。

戦場において、正確に作戦を実行に移すためには、腕時計の存在は欠かすことができない必須アイテムとなっていくのです。

人々は、貪欲に性能を追求していきます。

もっと基本性能を高く、そしてもっと強固であること。

それがいわゆる軍規格、つまりミルスペックと呼ばれるものなのです。

第一次世界大戦の頃は、主戦場は地上でした。

それゆえ、必要とされていたスペックも時・分・秒針のある一般的な3針式時計だったのです。

しかし、航空パイロットにとって、必要なスペックはそれだけでは足りません。

クロノグラフが必要となってきます。

ですから、パーチ&ダイゲン社の「マーク タイマー」と呼ばれるモデルを、第一次大戦中のイギリス海軍航空隊員たちは、ロシア軍を支援しながら使用していたのです。

このモデルに装備されているワンプッシュで計測できる機能は、爆撃開始などを測るために使われていたのです。

これと時を同じくして、アメリカ軍もバセロン・コンスタンチン製の懐中時計型クロノグラフを、数千個という大量購入している記録もしっかりと残されていました。

クロノグラフは第二次世界大戦をきっかけに普及

第二次世界大戦は、第一次世界大戦と違って、戦いの主戦場を地上から大空へと移しました。

それに伴い、必要となってくる時計も変わり、第二次世界大戦では、腕時計型クロノグラフが本格的に欲せられるようになってきたのです。

ロンジンはムーブメントに定評のあるメーカーでした。

そのロンジンがテレメーターのついた、フライバック式クロノグラフを誕生させたのです。

さらに、オリスが1941年に「ビッグクラウン」を開発します。

このビッグクラウンの最大の特徴と言えば、リューズがとても大きいということ。

手袋をしていることが多い、アメリカ空軍のパイロットたちは、その操作のしやすさに大いに喜んだと言われています。

さらに、翌年の1942年には、ブライトリングが世界ではじめての回転計算尺を備えた、「クロノマット」を発表するのです。

このモデルは、その後「ナビタイマー」と呼ばれるようになる、名品と名高いモデルへと進化していくのです。

ホイヤー社は、主にモータースポーツに強いメーカーとして知られていましたが、そんなホイヤーも例外ではなく、スイスの陸軍に高い精度のクロノグラフを納めているのです。

各メーカーが納めたそれらのモデルは、すべて高いスペックを保持した軍規格を満たすモデルでした。

厳しい軍規格であるミルスペックをクリアしようと躍起になっていた、各メーカーですが、結果的にそのことが時計製造技術の大幅な進歩へとつながっていったのです。

現在では、スイス時計と言えばすぐにオメガの名前が出てきますが、そのオメガも例外ではなく、第一次世界大戦中はイギリスに軍用の車用タイマーを納入していました。

さらに、オメガは1930年代から1940年代の間に、なんと10万個という大量の時計を英軍に供給しているのです。

この10万個という個数は、第二次世界大戦中に英軍が受けた供給の数のおよそ半分にもなったと言われています。

だからこそ、オメガはその技術力を高め、「スピードマスター」など、NASAの公式時計を作り上げることもできるようになったのです。

NASAのテストは大変厳しく、過酷なGなどに耐えなくてはいけませんでした。

そんなテストにライバルのロレックス社などは次々と脱落していきます。

しかし、どれほど厳しいテストであっても、スピーマスターはビクともしませんでした。

最後まで正確で高精度に時刻を淡々と刻み続けたのです。

このスピードマスターから派生したオメガのモデルが「フライトマスター」です。

フライトマスターは、パキスタン・エアフォースも使用したと言われているモデルです。

一方、レマニア社には天災時計師と呼ばれるアルバート・ピゲが開発した「スピードマスター」がありました。

これは、クロノグラフ・ムーブメントCal.27CHRO(Cal.321)です。

その後、後継モデルとしてCal.861が採用されています。

現在のモデルでは、マイナーチェンジ版としてCal.1861が採用されているのです。

このスピードマスターというキャリバーを制作したレマニア社は、1940年代から1960年代にかけて、大変高精度なクロノグラフを開発しています。

その中でも、「フライバック」と呼ばれるモデルは、シングル・プッシュ式を採用しています。

このモデルは、スウェーデン空軍に採用されました。

さらに、グイド・パネライ&フィリオ社(現在でのオフィチーネ・パネライのこと)は、イタリアの海軍に世界ではじめての本格的な水中ミッションウォッチを提供していました。

そして、実はクロノグラフのプロトタイプも作成しているのです。

グイド・パネライ&フィリオ社の歴史は、創始者であるジョヴァンニ・パネライが1850年にフィレンツェにお店を開いたことに始まります。

この見せは、フェイレンツェではじめての時計店だったのです。

そして、1936年には腕時計型の「ラジオミール」のプロトタイプを完成させるに至ります。

ラジオミールは、ロレックス製のケース、そしてムーブメントを唯一独占することができたモデルなのです。

このモデルは、1938年に伊海軍の厳しい試験をクリアして、製品化されることとなりました。

そんなパネライは1943年に伊海軍の依頼により、「マーレ・ノストゥルム・クロノグラフ」を開発することになるのです。

このときは、甲板将校向けに開発が行われましたが、残念ながら採用されることはなく、製品化は見送られることとなったのです。

もっとも、これらのパネルウォッチと呼ばれるものは、すべて軍仕様となっているのです。

それゆえ、一般化されるということはありませんでした。

そのせいもあり、オリジナルモデルとされているものは世界を探しても数百本しかないという大変貴重なものなのです。

しかし、1993年にパネライは「ラジオミール」の後継モデルとして「ルミノール」を復刻させることを決定しました。

実際に1998年には一般販売されています。

エレガントでありながらも、ミリタリーの雰囲気を残すクロノグラフとなりました。

このモデルは、現在では「ルミノール40mmクロノ2000」や「ルミノール40mmクロノグラフ・チタン&スティール」といったものがあります。

ブラゲは1955年にフランス海軍からの依頼により、パイロット用のクロノグラフの開発に取り組みます。

大きなリューズは、手袋をしているパイロットの使い勝手を考えての配慮でした。

他にも回転ベゼルを装備したオリジナルの「タイプXXアエロナバル」はコレクター垂涎の幻の逸品なのです。

さらに、軍用クロノグラフのメーカーとしては、意外な名前も発見されています。

それが「ポルシェ デザイン」です。

ポルシェと言えば、車というイメージが強いですが、実は軍用クロノグラフもデザインしていたのです。

このモデルは第二次世界大戦の頃から、いくつかの軍隊で使用されていたものです。

軍隊だけではなく、NATOが採用したものにはダイヤルの部分に「ROYAL NAVY」という文字が刻印されています。

1984年には、日本のセイコーが生産していた、世界ではじめてのクォーツ式「パイロット・クロノグラフ」が英空軍に供給されています。

初期のイエローダイヤル仕様の裏側には、英国政府官給品を示すブロードアローが刻印されているのです。

このモデルは、バルカン爆撃機のパイロットが着用していたと言われています。

クォーツ時計というのは、あっという間に時計界に広まっていきました。

現代の戦争では、クォーツ時計というのは当たり前のように実用的に利用されています。

湾岸戦争のときには、多国籍軍の兵士たちが日本のカシオ製であるGショックを着用していたことが大変な話題となりました。

その一方で、イランの兵士たちが着用していたのは、ブライトリングのナビタイマーでした。

これは、すべてにイラン軍のマークが入っており、イラン軍のパイロットが着用していました。

そして、1970年代に作られたオートマティックから、1980年代に作られたクォーツ式まで、色々なモデルがあったという記録も残っています。

歴代のミリタリ・クロノグラフ

アメリカ空軍のパイロットたちが着用していたオリス、そしてフランスの海軍航空隊に供給されていたブラゲの復刻モデル、さらに現在の本格パイロット・クロノグラフの魅力を紹介していきます。

それだけではなく、スイスの陸軍大尉でもあり、社長でもあったウェンガーが軍用として時計に求める性能を凝縮した製品や、新作のモデルなど。

ミリタリー・ウォッチをリプロダクトしているゼノの製品まで迫ります。

タイプXXトランスアトランティック・スティール

オリジナルは1955年に誕生していますが、このモデルは復刻版です。

1994年に誕生したモデルですが、ブラゲの中でも特に人気の高いモデルとなっています。

若年層も、ブラゲに対して憧れの眼差しを向けるようになったモデルでもあります。

自動巻きで、フライバック。

SSケースに革ベルトで価格は85万円。

GSTクロノ・オートマティック

IWCが作った中でも逸品と呼ばれるパイロット・クロノグラフ。

IWCは、1930年代の頃から航空時計を生産してきていました。

旧西独海軍からの依頼で防水時計も手がけています。

他にも超耐磁性を実現させるなど、名実ともに実力派のブランドなのです。

自動巻きで120m防水。

SSケースとブレスで価格は54万5000円。

クロノマットGT

伊空軍所属のエアロバティックスチーム、フィレッチェ・トリコロリーに協力を要請し、開発に成功したクロノグラフです。

スペシャリストを感じさせるエンブレムと、精悍なデザインが目を引くモデルとなっています。

バリエーションも豊富にあり、自動巻きです。

SSケース&ブレスで価格は40万円。

ビッグクラウン クロノグラフ

リューズが大きいのは1941年に登場したオリジナルモデルの特徴でもあります。

リューズが大きいと、手袋をしたままの操作がしやすいので、パイロットたちに大変人気がありました。

シースルーバックで自動巻き、サファイア風防となっています。

SSケース&ブレスで価格は21万円。

アクアマスター・オートマティック

ウェンガーの社長は、スイスの陸軍大尉でもあるピーター・フグ。

だからこそ、軍が求める機能を盛り込んだモデルを生産しています。

GSTシー・シリーズの「アクアマスター・オートマティック」です。

300m防水でデイ&デイト。

SSケースでバルジューCal.7750の自動巻き。

価格は31万円。

アーミークロノグラフ

1922年に創業したZENO-WATCH社はスイス・バーゼル市を拠点としている会社です。

軍隊経験のあるオーナー、フーバー氏の強い意思により、これまでのミリタリーウォッチのリプロダクツに力を入れています。

モデルはバルジュー製のCal.7750を搭載しています。

自動巻きで、SSケース、価格は12万8000円。