ロレックス ミルガウス



ミルガウスの始まり

ミルガウスは1956年にRef.6541としてロレックスが発表した腕時計です。
ミルガウスは耐磁性の時計で、発電所や医療機関、スイスのジュネーブにあるCERN(欧州合同原子核研究機構)など、電磁場により時計の時間にずれが起こってしまうような場所で働く人たちのために特別にデザインされた時計です。

ミルガウスという名前は、フランス語の「mille」(1000という意味)と電磁場の単位、ガウス(電磁場の研究を行ったドイツ人数学者、天文学者、物理学者のヨハン・カール・フリードリヒ・ガウスに由来する)から、1000ガウスの磁束密度にも耐えることができるので、その名前がつけられました。

オリジナルのミルガウスの見た目は、ロレックスのサブマリーナとよく似ており、大き目のケースとベゼルに、ツインロックリューズ、リベットタイプのブレスレットになっています。ミルガウスはたった二つのバージョン、Ref.6541と、非常に希少なRef.6543(88本しか生産されていない)しかありませんでした。



ref. 6543
ref. 6543


Ref.6541のムーブメントはファラデーケージと呼ばれる軟鉄耐磁構造のケージに包まれており、磁力がムーブメントまで届くことはないので、磁力に影響されることがありません。
どちらのモデルもCal.1080が搭載されており、回転ベゼル仕様になっています。そして、現在のミルガウスにも見られるイナズマ針(ホワイトゴールドで作られたオレンジ色に塗られたバージョン)が、その時は色がつけられていないスチールでした。

磁気が多い現場の人たちに向けて作った時計であるため、独特なデザインと色合いから、世間には全く人気がなく、1988年にRef.6541は生産終了となりました。
それにもかかわらず、1960年代初期にミルガウスの3代目バージョンとしてRef.1019が発表されました。
新しいキャリバー(Cal.1580)が搭載され、イナズマ針はなく、異なるダイヤル(ブラックまたはシルバー)、その他にもさらにレアなバージョンの「CERN」と呼ばれるダイヤルでも登場しました。

ref.1019


ミルガウスは、ロレックスのコレクターたちの間では、1960年代と1970年代のその人気のなさと、生産数の少なさから、今では誰もが欲しがる商品として探し求められており、今日のヴィンテージ時計の中でも希少なものとされています。そのため、ティファニーの刻印が入っているヴィンテージのミルガウスは、32,000ドル以上(365万円以上;2017/11/6現在為替による)で売れたという記録があります。



バージョン

最後の116400から20年近く経ったのち、2007年にロレックスは再びミルガウスを生産し始めました。今では、モデル116400は、ホワイトダイヤルまたはブラックダイヤルにカラーレスサファイアクリスタル、モデル116400GVは、ブラックまたはブルーダイヤルのものと、4種類のバージョンが発表されています。




ミルガウス116400ブラックダイヤル
ミルガウス116400ブラックダイヤル


ミルガウス116400GVブラックダイヤル
ミルガウス116400GVブラックダイヤル






ロレックスが2014年に新しく発表したバージョンでは、エレクトリックブルーダイヤルとグリーンサファイヤガラスが使用されています。116400GVはロレックスで唯一色がついたクリスタルを使用した時計とされたものとされています。噂では、この時発表されたものは、限定品と言われていましたが、116400は2015年に生産終了となりましたが、116400GVは約3年たったあとも生産され続けています。

内部磁気シールドが搭載されているため、サブマリーナよりは分厚くなっていますが、幅や重さ157グラムはサブマリーナと同じです。
ミルガウスには、耐傷性があり、さらに耐蝕性もある超高級ステンレススチール904Lのみ使用されています。

ミルガウス 構造



耐磁性とは別に、ミルガウスの最も変わった特徴は、オレンジ色の稲妻の形をした秒針(イナズマ針)です。一番最初にそのイナズマ針がロレックスのラインアップに出てきたのはミルガウス6541のモデルの時でした。
2008年には、希望小売価格は6,200ドル(約70万円;2017/11/6現在為替による)で、その金額、またはそれよりも下回る金額で販売されていました。116400GVの方は、6,575ドル(約75万円;2017/11/6現在為替による)の希望小売価格で、ほとんどの場合がそれを上回る金額で取り引きされました。



ケース

ミルガウスのケースは40mmで、鏡面仕上げのラグとベゼルになっており、ケースは分厚目で、横から見ると、ラグの部分が少しカープを描いているので、腕に装着したときに、とても着け心地良く感じられるとでしょう。
ミルガウスのアウターケースには、「Milgauss」とロレックスのロゴである王冠が刻印され、特殊なモデルになっています。インナーケースには、磁束密度を意味する「B」の文字がレーザーで刻まれてあります。

ミルガウス 裏蓋 刻印



ミルガウス インナーケース Bの文字刻印






グリーンサファイヤガラス

一般に「GV」と呼ばれるモデルは116400GVのことであり、GVはGlace Verte(エメラルド)を意味します。
角度や光の加減により、グリーンサファイヤガラスの色が見えにくかったり、はっきりとした緑に見えたりします。

116400GV(光)


ロレックスは、グリーンサファイヤガラスの生産がなかなかうまくいかないと噂されていました。制作工程の途中で、非常に壊れやすくなってしまうと言われていました。
それにより、ミルガウスのGVの生産はなかなか早くは進まず、その結果、正規代理店にはその商品を待つお客でいっぱいになり、さらにグレーマーケットでは、非常に高い金額での取り引きがされていました。
しかし、後に以下のことが理由で、グレーマーケットでも金額が下がってしまいます。
ミルガウスのGVのモデルには6時位置に王冠透かしが入っていません。色付き風防のため、王冠透かしを入れたら、反対に目立ってしまうからという意見があったり、技術的に難しいからという意見があったりします。その他のミルガウスのモデルはどちらも透かし王冠が入っています。






ダイヤル

ミルガウスの特徴として、グリーンサファイヤガラス以外にも、特徴的なダイヤルが挙げられます。ミルガウスは、3時、6時、9時位置のインデックスはオレンジ色で、さらに他の位置のインデックスに比べると少し幅が広くなっています。
ミルガウスのGVのモデルのみ、全てのインデックスの横にオレンジ色の数字が刻まれています。(GVではない、黒のダイヤルのミルガウスは、全ての白いインデックスの横にオレンジ色の四角いマークが刻まれています。)
ミルガウスは見てもわかる通り、デイト機能がありません。しかし、この特徴的なデザインのミルガウスには、そのデイト機能は必要ないのかもしれません。
また、デイト機能をつけるということは、ムーブメントを開けてしまうので、ミルガウスの特徴でもある耐磁性という部分が失われてしまいます。




ムーブメント

ミルガウスには特別なムーブメントCal.3131が搭載されています。
Cal.3130のアップグレード版であり、磁力による影響を受けやすいアンクルとガンギ車には常磁性素材のニッケル・リン合金が使用されています。ヒゲゼンマイにはブルーパラクロムヒゲゼンマイが使用されており、耐磁性に加え衝撃による耐性もあります。

ムーブメント1


ムーブメント2