ヴィンテージミリタリーウォッチ イギリス空軍に採用された時計『マーク11』ってなんだろう?
マーク11なんて言葉自体を一生のうちで、聞いたり口にしたりする人はほとんどいないでしょう。
逆に、それを聞いたり口にしたりするということは、あなたはもうすでにヴィンテージミリタリーウォッチの精通者になっているのです。
ということでですね、今日のお話はマーク11ってなんなの?
ということについてお話をして参ります。
動画でご覧になる方はこちらから↓
5つのパートに分けると
1、マーク11ってなに?
2、マーク11に求められたスペック
3、IWCとジャガールクルトのデザインの違い
4、さまざまなバリエーション
5、英国連邦に支給された時計の違い
となっております。
マーク11ってなに?
まずですね、マーク11ってなんのこと?
についてお話し、していくんですが、マーク11開発前の話に遡ります。
第一次世界大戦が終わったとはいえ、第一次世界大戦時に使用された腕時計は、戦争時に置いて重要な役割を果たすことが証明されました。
そのことによって、より精度が高く堅牢性がある時計が求められていくこととなります。
そして、第二次世界大戦が勃発することによって、ダーティダースが生み出されることとなります。
この前にダーティダースについてのお話をしてるのですが、ダーティダースってのは1944年から運用し始められ、第二次世界大戦中に陸軍が使用した時計であり、12のブランドから支給された時計なんですよね。
この詳細は、こちらのダーティダースの動画で詳しく解説してるので、そちらをご覧ください。
今回のはそれから2年後の、1946年頃から空軍専用の時計が作られていくのですが、陸軍が12ブランドから支給されたのに対して、空軍は2ブランドです。
要するに、マーク11とはイギリス国防省が、空軍に向けて空軍のために新しい規格を作り支給した時計のことなんですね。
ですので、陸軍に向けて支給された12ブランドの中からさらに信頼性があって、実績のあるトップが選ばれたということなんです。
・マーク11に求められたスペック
じゃあ、その2ブランドってなんなんですか?
ってのが1番の問題なのですが、ロンドンを拠点とする宝石商であるゴールドスミス&シルバースミス社を通して、マーク11の厳格な使用を達成することができるメーカー選別が行われました。
そして、ここで選ばれたのが『IWC』と『ジャガールクルト』だったんですね。
空軍が使用するものなので、やはり陸軍の物よりも堅牢性、しっかりとした精度が求められるものでした。
マーク11のスペック
・つや消しの黒い文字盤であること
・視認性の高いアラビア数字であること
・白で細かい分表示の目盛
・20フィート(6メートル程度)の防水機能
・軟鉄製のインナーケースによる耐磁製
・36時間パワーリザーブ
・1日あたりの日差がー4秒〜+4秒以内
・ハック機能が搭載されていること
・ハイグレードなスイス製のムーブメント
・秒針の視認性が高いセンターセコンドであること
となっております。
ここで重要なポイントなのですが、空軍は陸軍と違って無線をメインとして仲間との意思疎通を行います。
そのため、無線の電磁波を送受信するたびに、コックピット内には電磁波が発せられます。
この電磁波によって、普通の時計ならば磁気を帯びてしまい精度が下がってしまいます。
そこで、時計の精度に狂いが出ないように、耐磁製が搭載された腕時計が必要になったということです。
この時点で、ダーティダースのうちの12ブランドのうちに、このスペックを実現できるブランドというのは、IWCとジャガールクルトしかなかったということでしょうね。
ちなみに、IWCとジャガールクルトがダーティダース(陸軍)に納品した時計はこちら↓
このマーク11の時計は、イギリス軍はもちろんのことイギリス連邦加盟国である
・オーストラリア空軍
・ニュージーランド空軍
・南アフリカ空軍
にも支給されることとなりました。
ちなみに、南アフリカは植民地であって、南アフリカ人が戦闘機に乗るのではなく、南アフリカ駐在の空軍という風に考えた方がいいですね。
各国に向けて支給されたのは今でいうところの、ファイブアイズとかクアッド的なグループで、それらの価値観を共有する国に向けて同じ使用の時計が支給されたという感じでしょう。
IWCとジャガールクルトの時計の共通点
ダーティダースの時計も、ほとんどが同じようなデザインで違うところといえば、ロゴやサイズくらいしかぱっと見で判断できません。
まずははそのスペックに対応してデザインされた、2社のデザインの共通点を見ていきましょう。
それぞれの共有点ですが、文字盤、裏蓋、ムーブメントにはブロードアローのマークが入っています。
ブロードアローとは、上矢印のようなマークのことでこれはイギリス軍(イギリス政府)が所有するというのを意味します。
要するに、時計は個人のものではなく厳格に所有者を表示し、管理されていたということですね。
裏蓋を見てみましょう。
マーク11のコードは、6B/346で管理されていたのですが、これは『航空機ナビゲーション機器』『付属品及びユニット整備部品』を意味します。
その下にある数字なのですが、これは年代と製造番号が記されています。
例えば、こちらの数字なのですが1380/48と刻印が入ってますよね。
これは、後ろの48は1948年のことであり、その前の1380は製造された番号ということなのです。
ここまでが、2社の大きな共通点になります。
ここからは、それぞれのブランドの微妙な違いを見ていきましょう。
IWCとジャガールクルトの時計って何が違うの?
今回のマーク11もダーティダース同様、2社のデザインはほとんど一緒でぱっと見ではその違いは分かりませんが、よくよく見ていくと微妙に違いがあり、少しづつですがデザインが変わっていってるのが分かります。
ムーブメントが違う
ムーブメントはこれを使いなさい!
という規定はなかったので、それぞれの会社が軍用時計に採用されても、実力を発揮できるムーブメントを搭載しています。
まずIWCは、今も手巻き時計の中で有名なCal.89を搭載しています。
当時からも、ムーブメントに信頼性があり堅牢で安定性が高いことで定評を持っていました。
ジャガールクルトはクロノメーターグレードとされ、ハック機能がついた488/Sbrを搭載させることになります。
裏蓋の作りが違う
IWCの方は、6箇所のスクリューオープナーが入るように設計されていますが、ジャガールクルトの方は、4箇所になっております。
また、ムーブメントはジャガールクルトの方が厚さがあるので、時計もIWCと比べると少しだけ厚みがあります。
IWCは、エッジから風防にかけてフラットな作りであり、裏蓋も段差がありますが比較的にフラットになっています。
ジャガールクルトの方は、エッジから風防にかけては丸みを持った印象です。
裏蓋も、厚さのあるムーブメントを抑え込めるよう山形になっております。
製造された個数が違う
実は、製造された数に大きな違いがあります。
まずジャガールクルトの方は、1948~53年代までで約2950本が納品されました。
その反面、IWCの方は1948~53年代までで約8000本が納品されました。
倍以上の違いがあるのですが、これには理由があります。
まず、ジャガールクルトの方は耐衝撃性が不十分であったためです。
IWCも初期の頃の時計には、耐震装置はなかったのですが、後々耐震装置を搭載したものが作られるようなります。
しかし、ジャガールクルトの方は、それに対応することができなかったのでしょうね。
耐震装置とは、インカブロックのことですね。
そのことによって、60年代初頭には製造が中止され採用されなくなったのです。
ちなみに、IWCの方は1980年代まで製造されています。
マーク11の面白いバリエーション
ここからは、納品された年代によって微妙に変わってくるデザインの違いを見ていきましょう。
『丸T』と『T SWISS T』
レマニアの動画でも解説しましたが、時計の夜光塗料は始めの頃はラジウムが使われていましたが、放射能物質を出すことから途中でそれよりも少ないトリチウムに交換されていきます。
その交換過程で、色々なパターンが存在します。
1つ目は、いつもの丸Tバージョンですね。
丸Tが文字盤に印字されてるということは、ラジウムからトリチウムに交換しましたよ!
という証明になります。
そして、2つ目が6時位置にある『T SWISS T』の印字です。
夜光塗料の使用は、トリチウムに変更するという規約が決まった後に納品された時計であり、その時計には丸Tは後から印字する必要はなく、製造段階で6時位置の夜光塗料の下に『T SWISS T』と入るようになります。
最初からトリチウム使ってますよ!
の証明ということですね。
12時位置の夜光塗料の違い
ほとんどのパターンがこんな感じで、12時位置に三角形の夜光塗料が塗られているタイプのものです。
ですが、マーク11が作り出された頃は三角形はなくこんな感じで、12時位置の夜光塗料を2つの ドットが挟むものでした。
本来はあるはずのない12の数字が存在することから、相性を込めて『ホワイトトゥエルブ』と言われています。
よ〜く見ないと分かりませんが、こういった違いを見つけるのも楽しいものですよね。
ジャガールクルトの針の違い
ジャガールクルトの初期の頃に納品された、マーク11なのですがこのように普段私たちが見ている、ペンシル針ではなくコブラ針でした。
おそらく、視認性がよくないことからペンシル針に交換するように、要望が入ったのでしょうね。
連邦各国に支給されたマーク11の微妙な違い
イギリス連邦国に支給されたマーク11ですが、イギリス軍に配られたものとは微妙な違いがあります。
これも、イギリスがどこの国にどれだけ配給するかをしっかりと管理しておくためだったのでしょう。
それでは、実際にそれぞれの違いを見てみましょう。
南アフリカ空軍用 SAAF
先ほども説明した通り、イギリスの植民地であった南アフリカの空軍に向けて支給されたマーク11ですが、その刻印はSAAF(South African Air Force)の頭文字が入っており『南アフリカ』の意味になります。
オーストラリア空軍用 G6B
「6B」の前に「G」が付きG6Bになります。
RA・ブロードアロー・AF(RAAF)は「ロイヤル・オーストラリアン・エアー・フォース」の略で、オーストラリア空軍に向けて支給された時計ということになります。
フックドセブン
IWCのフックドセブンになります。
7の数字の部分を見て頂きたいのですが、普通の7ではなく鉤型の7になっています。
非常に少ないながらも、こういった個体があるんですねぇ。
まとめ
今日はこんな感じで、マーク11について解説させて頂きました。
アンティークとかヴィンテージの魅力ってのは、こんな感じである1つのモデルに対しても、微妙に違うのが存在することなんですよね。
足りない部品を在庫で補ってたり、指示が出される直前に前の仕様のものが作られ急いで改修したりなどしたんだろうなぁ、といろんな思いを馳せるのです。
実際に戦争のシーンで使われてた時計です。
今でも時計が実際に動いて、日常使いができることを考えると、いかに堅牢でしっかりした作りなのかが改めて実感できますよね。
また、そういったものに触れることでささやかな歴史に触れることができるのも、ヴィンテージウォッチの愉しみではないでしょうか。