機械式時計・手巻き時計 ブレゲ~超絶技巧のオンパレード、時計の革命者~
「ブレゲ」…時計愛好家なら、その名を聞いたことがあり、その歴史の深さに敬意を表さずにはいられないでしょう。
逆に「時計愛好家です。」というのにも関わらずブレゲを知らない人がいれば、ハッキリ言ってそれはモグリでしょう。
なぜなら今日の時計にも使用されている様々な機構を生み出した、大天才から始まったブランドだからです。
ブレゲの創業者、アブラアム=ルイ・ブレゲ(1747年1月10日 ? 1823年9月17日)は、スイスのヌーシャテルに生まれ育ち、フランス、パリのシテ島に時計工房を構え、人勢の大半をそこで過ごしました。
彼が生み出した様々な機構によって、時計の歴史は200年早まったとまで言われています。
まさに時計界のレオナルド・ダ・ヴィンチと言えます。
そのため、ブレゲはパテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ・ピゲ、ランゲ・アンド・ゾーネとともに世界5大時計と呼ばれます。
ブレゲの死後は子のアントワーヌ=ルイ・ブレゲ、孫のルイ=クレマン・ブレゲが工房を継いでいきましたが、ルイ=クレマンが電気通信で成功をおさめると、電機事業に専念するため、1870年に自分の工房で働いていたイギリスの時計師エドワード・ブラウンに工房を売却することになりました。
その後ブラウン家が3代に渡って運営していましたが、1970年にフランスの宝石細工商ショーメが商標を買い取り、さらにフランス資本のPPRがショーメごと買収しました。PPR傘下時にショーメから独立し、1987年にはサウジアラビア系投資会社インベストコープに売却されることになります。
インベストコープには長期保有の意思がなかったため、1999年スウォッチに売却しました。そして2015年現在もスウォッチグループの一社となっています。
さて、ブレゲは科学者や軍人、金融家や外交官など当時のエリートたちにとって欠かすことのできない時計師になりました。
経度委員会のメンバーに選ばれ、海軍のクロノメーター製造者に任命された彼は、アカデミー・フランセーズの会員になり、ルイ18世からレジオン・ドヌール勲章を授かるまでになります。
もはや時計業界では伝説のブレゲですが、その名を確固たるものにしたのは、かの有名な断頭台の露となった、フランス王妃マリー・アントワネットが注文した時計、通称ブレゲNo.160です。このNo.160は幾多もの複雑機構を備えた究極の時計なのです。その機構を詳しく観てみましょう。
? パーペチュアルカレンダーを搭載
パーペチュアルカレンダーとは永久カレンダーのことです。大の月(31日の月)、小の月(30日の月)、2月(うるう年を含む)を自動補正してくれます。簡単に書いていますが、全て機械仕掛けの歯車でやるのですから、それがどれだけ大変な技術かはおわかり頂けるのではないでしょうか。
大の月と小の月を区別するには、月ごとの歯車が必要になり、それぞれの歯車は1年に1度だけ動作することになります。
さらにうるう年もあります。4年に1度うるう年になるわけですが、これを補正するには、4年に一度だけ動く歯が必要になるという事です。想像もつかない機構ですね。
ミニットリピーターの搭載
ミニットリピーターは、現在の時刻を音で知らせる機構です。現在の高級時計にも搭載されているものありますが、パーぺチュアルカレンダーよりもさらに複雑な機構を搭載している為、大体1000万クラスの超高級時計にしか搭載されていないことが多いです。
どのようになっているかというと、1時間を表す音色、15分を表す音色、1分を表す音色が組み合って音で時間を表します。これを機械仕掛けで搭載しているのですから、これも驚愕です。
トゥールビヨンの開発
ブレゲが1801年に特許を申請したのがトゥールビヨンです。地球にあるものはすべて重力の影響を受けています。
機械式時計の心臓部も同じことで、脱進機、調速機にも重力がかかりますから、姿勢差で微妙な狂いが出てきます。
これを解決したのが、トゥールビヨンでした。
脱進機、調速機が姿勢差の影響を受けてしまうのであれば、この2つの機構をカゴに乗せて常に回転させることで姿勢差から乗じる誤差を相殺してしまうことを考え、実現させたのです。
あまりの制作難度の高さのため、現代でも世界でトゥールビヨンを作れるのは20人にも満たないと言われています。当然トゥールビヨンを搭載した時計は1000万円以上します。
スプリットセコンドの開発
クロノグラフとはストップウオッチ機能を持った時計のことを指します。
スプリットセコンドはクロノグラフの秒針と、それとは別に独立した停止機能を持つ針の2本の針によって計測開始から任意の地点までのラップタイムを計ることが可能です。
以上の4つの機構が、機械式時計の超複雑機構で、「時計の4大機構」と呼ばれています。これらの機構のうち2つ以上搭載されている時計を「グランド・コンプリケーション」
と呼びます。ところでこの4大機構を150年以上前のブレゲの最高傑作「ブレゲ No.160」にはすべて組み込まれているのですから、その技術の高さには脱帽するしかありません。
ちなみにこの4大機構以外にもブレゲNo.160には、今日でもなかなか手の届かない値段になっている時計に搭載されている機構を兼ね備えていました。
さて、ブレゲNO.160はマリー・アントワネットに1783年に依頼を受けてから44年後の1827年に完成しました。
しかし当の依頼人のマリー・アントワネットは1793年フランス革命によって、ギロチンによる断首刑に処されてしまったわけですから、依頼人の死後30年にやっと完成させたわけです。実は彼女の死後も制作を続けていたブレゲ本人も完成の4年前に亡くなってしまったので、彼の後進たちが彼の遺志を継ぎ完成させたのです。
王妃に対する忠誠を捨てなかったのですね。こういったわけですから、注文した者も受けた者も、結局ブレゲNo.160の完成を見届けることがなかったのです。
ブレゲNO.160はおそらくブレゲ家によって保管されていたとされていますが、一時的に行方がわからなくなり、20世紀初頭、デヴィット・サロモンズ卿の手に渡り、彼の死後、エルサレムのL.A.メイヤー記念イスラム美術館に寄贈されました。
しかし1983年何者かによって盗み出され行方不明になってしまいました。
しかし2007年11月11日に再び発見され、ブレゲ社によりブレゲ NO.160が本物と証明されました。
そして今は同社の美術館に展示されています。ちなみに所有権に関していまだに裁判で争われているとのことです。これだけの機構と歴史が詰まった時計ですから、もはや値段はつけられませんね。
そしてブレゲは盗品が見つかる前から、4年ものプロジェクトでブレゲNo.160の復刻盤ブレゲNo.1160を作り上げました。盗品が見つかる前なので、当時の文献を再現して作ったとされます。
実は2015年は1775年にアブラアム=ルイ・ブレゲがパリに自分の工房を構えてから、240年を迎える記念の年です。
同時に「トラディション」シリーズの10周年、フランス海軍の御用達となってから200年など、ブレゲにとって記念すべき多くのことが重なった年になりました。最後にブレゲの代表モデルを紹介します。
トラディション
アブラアム=ルイ・ブレゲが開発した「スースクリプション」という初期の懐中時計にインスピレーションを得て製作されたシリーズです。文字盤がシースルーバックになっており、機械の動きを目で楽しめます。
またアブラアム=ルイ・ブレゲが開発した耐震装置「パラシュート」を導入したモデルなど、過去の傑作を意識したモデルとなっています。
価格は大体290万ほどから。
クラシック
このコレクションはブルースティールのブレゲ針、コインエッジ、ギヨシェ彫りのダイヤルなどにブレゲ本来のデザインが継承されています。価格は190万ほどから。
クラシック・グランド・コンプリケーション
先にご紹介した「グランド・コンプリケーション」シリーズの時計です。もはや芸術品の域です。価格は1500万以上します。
マリーン
フランス海軍の専用腕時計として名を馳せたブレゲのスピリッツからインスピレーションを受けているシリーズです。価格は150万から500万以上するモデルなどもあり、価格の幅も広いです。
タイプXX
もともとはフランス海軍航空部隊のために1950年代に設計されたものです。このクロノグラフには飛行中の連続した時間計測のために必要とされたフライバック機能もそのままついているこだわりの仕様。価格はブレゲの中でも比較的求めやすい110万ほどから用意があります。
クイーン・オブ・ネイプルズ
ナポレオンの妹でナポリ王妃となったカロリーヌのために アブラアム=ルイ・ブレゲが創作した、世界初の女性用腕時計にインスピレーションを得たコレクションです。価格は380万ほどから。
ヘリテージ
古典的なデザインを現代の腕時計のフォルムに応用したモデル。価格は350万ほどから。
価格をご覧になってお分かりになると思いますが、そんじょそこらの人ではとても手が出せない値段の時計ばかりで、中古でも最低80万円台からスタートするのがブレゲです。
ブレゲの時計を手に取ると、ロレックスのよう実用に重きをおいた時計とは全く趣旨の異なる、完全なる芸術品の気品が感じられます。ブレゲをご覧になったことがない方はぜひ一度ブレゲの時計を手に取ってみてはいかがでしょうか。